明日は鉄製の傘を装備しよう。
目の前に広がる光景を前に、高尾は心に決めた。
なんと、あの宮地が、緑間と笑顔で会話しているのである。
様子がおかしいとは思っていた。やけに上機嫌で、練習にも気合いが入り、シュートがいつも以上に決まる。
しかしまさか、毛嫌いしている緑間と笑顔で話すほどとは。
高尾の好奇心は限界だった。

「先輩、機嫌いいっスね、今日」
「おう!分かるか!」

誰だあんた。
高尾は思わず口に出しそうになった。
こんな満面の笑みを浮かべる宮地先輩なんて、俺は知らない、と。
緑間もこの状況に戸惑っているようだった。

「……何かあったんスか?」
「おう、まあな」

宮地は大げさにひとつ咳払いをすると、嬉しさを抑えきれないといった様子で語りだした。

「今週の日曜、練習休みだろ?」
「そうっスね。珍しく」
「その日にな」

宮地はもったいぶって、一度言葉を切った。それから得意気に言う。

「握手会があるんだよ!」
「握手会?」

宮地は、某国民的人気アイドルグループの大ファンである。彼女たちは定期的に握手会を開催しているらしいのだが、今までは全部練習と日がかぶってしまって行けなかったそうだ。

「もう準備万端なんだよ。その日に向けてな」
「はあ。念願叶って、ってやつっスからね」

おう、と明るく応じた宮地は、そのグループの楽曲を口ずさみながら練習に戻っていった。
道すがら、緑間の頭にぽんと手を置いて。
戸惑いが過ぎて挙動不審になっている緑間を見ながら高尾は思った。
明日降るのは槍だけで済まないかもしれない、鉄製の傘では足りないかもしれない、と。

「一軍全員、集合!」

体育館に突然、大坪の大声が響いた。各員思い思いに返事をし、小走りに集まる。
全員が集まったことを確認し、大坪は口を開いた。

「急で申し訳ないが、日曜に練習試合が入った」

高尾はちらりと横を見た。そこには動きを完全に止めた宮地が居る。大坪の説明は、全く耳に入っていない様子だ。
憐れみの目を向ける高尾に気づかず、宮地は汗に紛れて涙を流した。

日曜の練習試合、宮地はエースに匹敵する活躍を見せた。

M氏の不幸な週末

(俺の天使は)
(すぐそこだったのに!)


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