黄瀬は悩んでいた。
緑間のラッキーアイテムが邪魔だとか、紫原がお菓子を食べ零して汚いとか、赤司の組み立てたメニューがキツすぎるとか、――それらも確かに深刻な悩みではあった――そういったものでは無い。
しかしチームメイトに関する悩みということには相違無かった。

「ねえ聞いて、青峰君!今日ね、テツ君がね」
「あー、はいはい、良かったですね」
「ちょっと!ちゃんと聞いてよ!」

休憩時間に繰り広げられる幼なじみのやりとり。
普通に見れば只の微笑ましい会話だが、黄瀬の目にはそうは映らない。

(桃っちは、黒子っちが好き)

はにかみながら黒子と話す桃井を見て、黄瀬は心の内で呟く。
それから視線を少しずらし、別の人間を見た。

(でも、青峰っちは、桃っちが好き)

この三角関係こそが、黄瀬の悩みだった。

「難しいっスねえ」

少し前を歩いていた緑間が振り向いた。独り言のつもりだったが、聞こえていたようだ。

「何がなのだよ?」

緑間にこのことを相談するわけにはいかなかった。恋愛事には特に鈍感な彼が、現在の状況に気づいているとは到底思えない。
黄瀬は、へらっと笑って誤魔化した。

「別に。大切な人たちには幸せで居てほしいよね、ってことっス」

三人。奇数。
全員の思い通りに事が運び、全員が幸せになる可能性は限りなくゼロに近い。
意味深な黄瀬の言葉に怪訝な表情を見せたものの、緑間はさっさと前に進み出した。
その背中を追いながら、今度は緑間にさえ聞こえない小さな声で、呟いた。

「みんながみんな、幸せになれればいいのに」

ご都合主義者の幸福論

(それは、大切な人たちの)
(しあわせを願う声)


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