これの続きです

「テツ君、誠凛に行くんだって」

私の声に――正しくは、『テツ君』という名前に、五人は様々な反応を見せる。
きーちゃんは、自分のロッカーに伸ばしていた手をぴたりと止めた。
みどりんは、眼鏡に触りかけた左手を下ろした。
ムッ君は、お菓子の袋に突っ込みかけた指をぺろりと舐めた。
大ちゃんは、人差し指で器用に回していたバスケットボールを転がした。
ただ一人、赤司君だけは変わらぬ表情で、黙々と部誌を書いていた。

「テツヤは誠凛か」

重苦しい空気の中を、赤司君の凛とした声が通る。

「これで東京に残るのは、さつきも含めて四人だな」

さらり、とした感想。
耐えきれずに、私は口を開いた。

「みんな、ばらばらになっちゃうんだね」

沈黙。
物音ひとつ、しない。
どうして、こうなってしまったのか。
みんなで楽しくバスケをしていたあの日は、どこへ行ってしまったのか。
私の大好きな彼は――。

「ほんと、見事にばらばらっスねえ」

空気を変えようとしてか、きーちゃんが明るく言った。その笑顔は、ファンの子に見せるような、薄っぺらいものだ。

「黒子っち、俺たちと同じ高校にすればよかったのに」

きーちゃんはテツ君のこと心配してるんだ。
少しだけ、私の気分が明るくなった。
しかし、次のきーちゃんの言葉は、私をもっと深い絶望へと叩き落とした。

「俺たちが一番上手く、黒子っちを使えるんだから」
「っ、黄瀬……!」

視界の隅で大ちゃんが動くのが見えたけど、それより私の方が早かった。
ぱあん。
乾いた音。驚くみんな。
きーちゃんに駆け寄った私が、その頬を思いきり叩いたのだ。
頬を押さえて、見開いた眼で私を見るきーちゃん。
私は彼を睨みつける。
涙が一粒零れ、止まらなくなった。

「……みんなが、みんながテツ君のことそういうふうに思ってるから!だからいけないんだよ!」

溜めていた思いが、涙と共に溢れだす。

「『使う』って何!?テツ君は道具じゃないよ!一緒にバスケをする『仲間』じゃないの!?」

私はありったけの声で、叫んだ。

「きーちゃんもみどりんもムッ君も大ちゃんも赤司君も、みんな大っ嫌い!」

部室を飛び出した。
誰も止めなかった。
誰も追いかけて来なかった。

壊したのは、誰

(利用した彼らか)
(無力だった私か)


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