日が落ちた。
狭くごちゃごちゃした部屋が真っ赤に染まった。
まるでそれは血のようで。
俺はこの時間帯が嫌いだ。思い出したくない記憶がよぎる。
「辛そうな顔してるね」
どこにもぶつけられない怒りや憎しみを込めて、外を睨みつけていると、沙樹が顔を覗き込んできた。
壊れた彼女の姿は、更に俺の心を痛めつける。
「カーテン閉める?」
俺が応える前に、薄桃色のカーテンがすっと窓を覆った。
部屋に射す赤が少しだけやわらぐ。
「ああ、あんまり変わらないかな」
「いや、十分だよ」
そう、と小さく頷いて、沙樹は俺の隣に座った。
するりと自分の指を俺のそれに絡ませ、肩に頭を載せてくる。
「正臣」
「ん?」
「大丈夫だよ」
柔らかい声。
「私は正臣から離れたりしないよ」
手を握る力が強くなる。
「ずっとここにいるよ」
「沙樹……?」
突然のことに驚き、ちらりと沙樹を見る。
沙樹は変わらず、俺に表情の無い笑顔を向けた。
ほんの少しだけ、重くのしかかっていたものが溶け、解放された気分になる。
「あ」
俺をまっすぐ見つめ、沙樹は小さく声を上げる。
そして、笑った。
「優しい眼になった」
繋がれた手が温かい。
俺も指に力を込めた。
「夜ご飯ね」
「ん」
「シチューにしたよ」
「お、確かにいい匂いするな」
「うん」
「食うか」
「うん」
そうは言いながらも、俺たちは暫く、だんだん暗い色に染まっていくカーテンを眺めていた。
血だまり、陽だまり
(無機質な熱だ)
(けれど、心地いい)