「ボクは、影なんです」
柔らかい声で、隣に立つ彼が言った。
「ボクは、みんなの――『キセキの世代』の、影なんです」
それは、優しく、でもしっかりとした芯のある声だった。まるで、自分に言い聞かせているような。
「所詮ボクは、光を際立たせるためだけにコートの中に居るにすぎないんですよ」
彼はバスケが大好きだ。
バスケをしてるときの彼は、本当に楽しそうで、見てる私まで嬉しくなってくるくらいだ。
けれど、最近、彼から笑顔が消えた。
バスケをしていても、楽しそうじゃなくなった。
原因は、分かっている。
みんなが、遠くに行ってしまったから。
彼を頼っていたみんなが、自分自身を頼るようになってしまったから。
彼からは、日に日に笑顔が消えていった。
ほら、今も、光の灯っていない眼で、眼下の景色をぼんやり見ている。普段は澄んだ海のような瞳は、暗く淀んでいる。
二人しか居ない屋上で、私は不意に孤独を感じた。だだっ広い空間に二人だけで居れば感じるものなのかもしれないけれど、そうではなく、彼が何処か遠くへ行ってしまいそうな、そんな感覚だった。
彼の袖口を掴むような勇気なんて無い私は、必死に訴えかけた。
テツ君は必要だよ。私たちバスケ部に必要だよ。テツ君にしか出来ないことが沢山あるよ。
私の光はテツ君なんだよ、とまで言う勇気はやっぱり出て来なくて、それでも私は、しっかり気持ちを込めた。
彼の蒼い眼が私を見て、優しい微笑み。
「ありがとうございます、桃井さん」
私も笑った。これで彼は、まだ傍に居てくれるのだと思ったから。
しかし数日後、彼はバスケ部を辞め、私の前から姿を消した。
わたしのひかりは
(何処、何処)