さぼり
「あーなんかどっと疲れた。ったく総悟の奴」
首元をさすりながらぼやく。ちょっとしたイタズラがここに来てばらされるなんて。だってさ、いつもあの先生罰として痔の薬買いに行かせるんだよ?ちょっとくらいの仕返し別にいいじゃん!
え?宿題遅らせる私が悪い?ごもっとも。
「何ぶつぶつ言ってんだ眠れやしねェ」
「あ、ごめん」
しゃーっと隣のベッドのカーテンが開けられた。高杉君だ。不良らしく保健室要員らしい。
「珍しいね学校くるなんて」
「お前は珍しく早起きした癖に遅刻したらしいじゃねェか」
「はっ、なんで知ってんの?」
「神威から聞いた」
あんのバカおさげ。
私が顔をしかめたのが見えたのか高杉はおかしそうに喉を鳴らす。意外と二人は仲が良いらしい。
「てか神威喧嘩から帰ってきてたのか」
ということは今日もあっさりと終わったらしい。相手は大したことなかったんだな。
「ねー、高杉」
「すー……」
って寝てんじゃねーかよ。
すぐ目を覚ます割に寝付きはいいんだな。
切れ長の目は今は閉じられていて、さらさらの髪がそよ風に時々揺れている。
「……」
こうやってればかっこいいのにな、こいつ。
女子には人気らしいが正直私には良さが分からない。むしろ神威に似て苛つきさえ感じるが。
黙ってれば結構可愛いもんだ。
一瞬寝苦しそうに眉間に皺を寄せた高杉に笑って、何気なく手をのばして髪をかき上げた。
瞬間、高杉の目がぱっちりあく。
「わっ」
直後、腕を引っ張られ必然的に私は高杉の上に乗っかる形になった。
「ちょっ、なに」
「しっ」
耳元で声が聞こえて頭を押さえられる。訳が分からずどぎまぎして固まる。
「保険医はいないみたいですねェ」
「じゃあ適当にそこら辺に寝かせとけ」
沖田君と土方君の声だ。隣から聞こえる。
やばい、今見つかったらまた首輪つけられて挙げ句服部先生にちくられるぞ、沖田のことだもの。
この状況を面白がるように小さく笑う息が耳にかかって何だかくすぐったい。
「もうすぐ帰ってくるって書いてあるから大丈夫だろ」
「近藤さんもタフですねィ」
「じゃなきゃあんな女追っかけられねーよ」
声が遠ざかっていく。ほっと息をつくとクク、とそばで笑う声。
「見つかっちゃまずかったんだろう」
「は、なんで知って」
「お前は独り言多すぎんだよ」
マジでか。てか気をきかせてくれたのか珍しい。
「それに長い付き合いだからなァ」
「そうですか。つか離れてくれない?」
若い男女がこの体制のままでいるのはいかがなものかと。
ぴったりとくっついてるために息する音すら聞こえる。なんだか恥ずかしくなってきた。
「いやだね」
ぎしりと軋む音がして視界が反転。見えたのは天井と奴の不敵な笑み。
……あれれ?
「昔、した約束覚えてるか?作った借りはその場で返す」
はい、それは昔の話。今よりもっと札付きの悪だったこいつは、ちょっとした借りをネタにずっとゆすったりするもんだから私が一方的にそう言ったのだ。
これから借りを作ったらその場で返すからちょっかいかけるな、と。
「は?いやでも明らかに釣り合ってないでしょうよ!」
「俺ァ沖田に負けず劣らずSなモンでなァ」
「……ちょ、」
制服に手をかけられる。
「ククッ」
「待て待て待て!ぎゃァァァ誰かァァァ!!!」
「ぬしら……」
私の叫び声に呼応するように聞こえた声にはっと顔をあげれば、
保険医の月詠先生がそこにいた。
「……」
「……いや、これはそういうことじゃないですから違いますから」
だらだら汗をかきながら言うとはぁ、とため息が返ってくる。
「そういうのはホテルでやれ。なんならわっちが紹介してやろうか」
「ほう、そりゃあ有り難ェな」
「高杉も乗ってんじゃねー!だから違うってば!!」
銀魂高校には変な人が多い。