「おーにづーかさんっ」
振り返る。私の親友は後ろに何かを隠したままニヤニヤしてこっちを見ていた。
「なにしてんの、きえちゃん」
「今日は何の日でしょう!?」
「二月二日」
「日にちは聞いてないんだってばー」
頬を膨らませるきえ。我が友ながら若干うざい。幸い教室には私ときえ二人だけで誰かが彼女を見て何か言うことはなかった。
「今日うちで節分やるでしょ?だからー、じゃんっ」
鬼の面を私の前にかざした。
「優ちゃん鬼やって!」
「悪いけどそのネタ使い古されてるから」
「えー!」
でもいいじゃん!と胸を張るきえにわざとため息をつく。昔っからどいつもこいつも単純思考だ。
「いいじゃん、たまのイベントなんだから付き合ってくれても」
「やだよ鬼役は。私は豆食べるだけでいい」
「だめなのそういうのはきっちりやんないと!」
変なとこだけ細かいな。
私は立ち上がって教室の隅っこにあるストーブのそばへ寄る。
外を見た。日が短い冬。もう陽は傾いていた。
「だいたいねー、そしたら鬼って名字の人なんてどうなるの?優ちゃんと比べものにならないくらい鬼役やらされてんだよ?」
「鬼さんなんて知り合いいたの?」
「いないけどきっとそうよ」
あ、そう。
突っ込む気も失せてるのでそのままストーブのそばへ座り込んだ。きえもてこてこと歩いて私の隣で座った。
「いきなり思いついたのはねっ」
「私何も聞いてないんだけど」
「やっぱ一人暮らしだとさ、家にいんの寂しい訳よ」
「……うん」
そういやこの間から一人暮らしだったな、きえ。私んちは常に騒がしいから結構羨ましいけど。
「だから私、出来る限り家でイベントを行うことにしたの。そしたらちょっと気も紛れるし、いいと思わない?」
「普通に私が遊びに行くんじゃだめなの?」
「だめじゃないけど、イベントの方が心の中に残りやすいし、思いでにもなるじゃない」
うん、まぁ、言えてるけども。
「うちに遊びに来るのは?節分もやるし」
「それじゃあ帰った時によけい寂しくなる!」
「……あー」
それは、よく言われる事だった。兄弟多いし親もイベントとか大好きでよく催し物をやってる。だれも片づけしないから大変とか、けっこう鬱陶しいことも多いのだが他人からすれば羨ましい、らしい。
「分かった分かった。じゃあ、きえが鬼ね」
「なんで?」
「やりたいから。普段の鬱憤全部ぶつけさせてもらうわ」
「うわー鬼塚さん鬼!」
「それうまいと思ってるの?」
おにーおにーとばしばしたたかれる。我が友ながらかなりうざい。
「他に誰か呼ぶ?」
「んや、二人でいい」
「そ」
じゃあ帰ろうか。
すっくと立ち上がる。暖まりすぎて顔がかなり火照っていた。さわると熱い。
「ねぇ優ちゃん」
「なに?」
「ありがとね」
へへ、と照れたように笑うきえ。
「やっぱ優ちゃんはしんゆー」
「そう」
暑かったはずなのに外に行けばあっという間に冷える。
「ね、雪だ!」
「ほんとだ」
通りで寒いと思った。
ようやくきえが追いついたらしく隣に来る。
「早く豆買って帰ろ!」
頷いて早足で一緒に歩き出した。
凍える程寒いのに、何故か右側だけが妙に暖かかった。
「ふくはーうち、鬼もーうち!」「それ、間違ってる」「あってる!だって優ちゃんを追い出したくなんかないもん!」「…………」
バカにされてるのか、なんなのか。