「………」
「ちょ、ちょっと待って」



何かの間違いだ、これは。いやたしかに変な夢見たさ、神様に会ったさ、でもそんな夢だしさ……


そんな風に思考を重ねるもただ混乱してぐるぐると同じ所を回るだけだ。目の前の神威?は笑わないままじっとこちらをみていた。

な、なんだなんで笑わないでみてんの。作法はどうした。やっぱ神威じゃなくてただのコスプレイヤーかなんか?

ふうん、と彼は私をみたまま言う。


「傷口が全部ふさがってる。夜兎と言えどあり得ない回復力だね」

「……は」

「何者?」




いやそれ、こっちが聞きたい。


と言う前に彼は瞬間移動でもしたかのように私の眼前に迫ってきた。



「う、わっ!」



思わず右手で振り払う。しかしその右手につられるように、ぐんっと身体も引っ張られた。


「いぃ!?」




疑問に思う暇もなく身体がそのまま、数十メートル吹っ飛んだ。

あちこちに打ちつけながらごろごろと転がっていくのが分かる。




「〜〜〜っ」




不思議とそれほど痛みはない。




「あ、あんたいきなり何、がっ!」




腕を踏まれた。締め付けられるような、ギリギリとさっきの何倍もの痛みが走る。




「―――っ」
「さっきと打って変わって動きが違うね」



冷たい、しかし興味深けに探るような目で此方を見ている。な、んだよこいつ。



「身体に力を入れないで腕だけ振ったらそうなる。受け身も出来てない。まるで素人だ」
「だっ、だから私は――」



喧嘩もしたことない普通の女の子ですから!昨日まで失恋して一人やけ酒食らってた女の子ですから!……あれ、これ女の子ってよりおっさん?




「……でも馬鹿力と治癒力だけはある、か」
「え?いやさっきからなんの――」
「名前は?」




こいつ人の話聞いてない。てか、そろそろ腕が鬱血しそうだ――顔を歪めると彼は以外にもあっさり足をはなした。





「――鷹木、流夏」
「そう」




その瞬間、彼は見覚えのあるにっこり笑顔に変わった。なんかいやな予感がしてずさっと後ろに後ずさる。




が、それもむなしくむんずと首根っこを捕まれた。





「ちょっ!?」
「面白いね。持ってる能力だけは唯一無二か。鍛えたらひょっとして俺も超える逸材かも――いやそれはないか」

「いやよく分かんないけど放してっ」
「でも暇つぶしにはなりそうだ。仲間の船なら君をおいて発ったよ、君もみたろ?」
「いやだから何の話!?」





引きずられながら首を後ろにひねる。

そこには笑顔の鬼がいた。



「ここで潰すのも勿体ないし、暫くうちで働かない?」

「―――え」

「光栄に思いなよ、団長直々のスカウトだ。ま、いずれ俺が殺すことになるだろうけど嫌だったら精々強くなってネ」




自分で雇った部下自分で殺すのかよ!?

あぁ、なんか本当に銀魂の神威みたいだ―――あれ、みたいじゃなくて、神威、なの?



加虐的な笑みを向けられる。つられてひきつった笑顔を返すと今度はにっこりと爽やかに笑った。








俺から逃げられると思わないでね。

ああ、これもっと別の状況で言われたかったなぁと思った傷心の私。







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