「どーなってんのかねこれ」




じぃーっと鏡を睨む。そこには可憐な少女が仏頂面で映っていた。

――いや、決して自画自賛してる訳ではない。




顔の作りが、まるまる違うのだ。いやそれどころか身体も、何もかもがまるで別人である。

目が青色だし。髪は黒だけど、顔立ちが綺麗過ぎる。作り物みたいだ。

美人はこう、鏡見てても飽きないものなんだな、と関心しながらまじまじと見入る。




こんなに綺麗ならさぞかし生きてても楽しいだろう、男にも――と考えた所で苦い思い出が広がってやめた。

ただでさえ混乱するような状況なのにさらにやなことまで思い出したくない。




「しっかしどうなってんの」




元着ていたチャイナ服は血みどろで着れないので、今はもらった服を仕方なく着ている。これまたチャイナ服だが黒一色の飾り気無い物だ。

着替えた服を摘む。背中部分の左部分が破けていてそこだけ一等真っ赤に染まっていた。心臓、の部分になるのか?

その他もなんだかいろんな血が染み込んでいる。これは、私の血じゃないだろう。

みていると気持ち悪くなってゴミ箱に捨てた。

なんか、さっきの擦り傷も塞がってるし。




ああ、意味が分からない。



本当にここ、春雨なの。銀魂の世界なの。



で、私はどうなっちゃったの。てか、どうなるのこれから。





失恋だけで勘弁してくれよなんの嫌みだよ。いや、神威に会いたいとは思ったけど!あの人恐いよ。やっぱフィクションだから好きになれるんだああいうのは。実際に付き合うとなるとただの危ない人だからね。




……まぁ、確かにかっこいいけどさ。

ちらりとさわやかな笑顔を思い浮かべる。いつもの癖で思わずにやけた。

はっ、いかんいかん気引き締めていかなければ。何より今の私は美人な訳だし。



「最強だ、あはは」
「自分に見とれたり一人でにやけたり笑ったり、確かに面白い奴だなあんた」
「はっ!?」




誰かに見られてた。ばっと振り返ってみればこれまた見たことある顔だった。



「それともただのナルシストか、お前さん」

「―――あ、」



阿伏兎。

ああああ!銀魂のキャラはみんな好きだけどその中でもかなり好きな一人!

かっけェェェ!!

きらきらした目で見ると怪訝そうな視線が帰ってきた。



「お前は百面相得意なのか」
「あ、いえ。どちらかというと苦手です」
「意味が分からん」




普段は仏頂面だよ。ただここに来て驚くことがありすぎたからさ。今だってにやけた顔が収まらない。阿伏兎はこちらを見てため息をつく。




「生き返った死人ってのを見たくて来てみりゃ、こんな可憐なお嬢さんだったとはなァ」
「えっ、いや」
「なに顔赤らめてんだ」



いや。面と向かって誉められるとハズいものが。



「本当に生き返ったのか?」
「生き返ったって……そもそも死んだ覚えがないんですけど」



心臓貫いたとか神威言ってたけど、何かの勘違いじゃないかな。だってピンピンしてるし、むしろ前よりナリ良くなってるし。



「それともあなたの団長さんは私に整形手術でも施したんですか?」
「は?」
「つか、何なんですか(今のこの身体の)私は。なんであんな所にいたんですか?」




何で俺に聞く、と阿伏兎は眉をひそめた。だが何だかんだ良い人なのか説明を引き受けてくれたようだ。




「今回の仕事は俺達にお誂え向きの的の殲滅だったんだ。そこに現れたのがお前さんだろ。団長にしては殺るのに手間取ったみたいだな」
「……はぁ」
「あんた夜兎んなかでも相当な手練れだろう」
「……え」



いつの間に夜兎になった私は。



「なんだ、生き返った拍子に記憶まで吹っ飛んじまったか」
「……………あ」





『いや、私が神威に会いに行っても即殺される気がする』『そのへんは考えてある、だいじょーぶ』




「………あ、あのガキ」





ひょっとしてこの身体。





「……ひょっとして当たったか。オイオイ冗談キツいぜ」
「あー、まあそういうこと、かな?」




そのほうが色々都合がよさそうだ。




「てか生き返ったなんて話、素直に信じてるんですか?おっさんの割にメルヘンチックなんですね」
「団長がそんな嘘ついてなんの特がある。それにたまにゃ夢見てなきゃこの殺伐とした場所じゃ生きていけねェよ」
「意外と繊細なんですね」
「あいつの下で働いてると分かるさ」



分かりたくないなァ。



「ま、お前のほうが酷いだろうがな。ご愁傷様」

「は、何が」




「ここはお互いを食い合う獣しかいねェ、自分が生き残る事しか考えてねェ低俗が集まった愚劣な組織だ。お前が相当腕が立つとなりゃ狙われもするだろうな」

「……え」

「強過ぎる奴は嫌われるんだよ。おまけにお前は元敵方だ、少しでも問題起こしたらなんだかんだ理由つけられて処刑されかねねーぜ?」





ま、精々頑張れ。

と投げやりな言葉をちょうだいしたあと、私は呆然とただ突っ立っていた。

…………強くなればいいのか弱いままでいいのか、どうすればいいんだ私は。











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