「ねぇねぇ、聞こえてる?」
「はい?」




いつの間にか目の前に男の子がいた。

ちっちゃい小学生くらいの男の子。私を見ている。




「僕がわかる?」
「いやわからないです」
「嘘!?」
「どっかで会いましたっけ?」
「いや会ってないよ」





なんじゃそりゃ。どういう意味だよ。

「やった、見えてるんだね。成功だ!」といって男の子はさもうれしそうにニコニコと笑顔になった。




「僕ね、神様なんだ!」
「……は?」
「なったばっかだけどね!」




一体なんの冗談だ。結構な不幸体質の私だが、まさかここにきて天に召されたとかそんなん?いい加減にしろよオイ。




「違う違う。今は夢の中なのー。召されたんじゃなくて僕が君を呼び出したの」
「はぁ。てかなんで思ってることがわかったし」
「神様だから!」





……ま、いいや。とりあえず夢ということにしとこう。少々うざったいガキだが夢だと思うと話をきく気になれた。




「神様になった手始めに願いをかなえようと思ってね」

「うん」

「君、『もう何もかも嫌だァァ!!銀魂の世界に行って神威に会いたい!!』って言ってたじゃない」

「ちょ、」




なに人の恥ずかしい叫びを勝手に聞いてんだァァ!!

いやそうだよ、確かにふられた後にそんなこと口走ったよ酒飲みながらな!でもうわっ恥ずかしい!




「耳に入ってきたんだよ」
「ちっくしょー、死にてえ」
「あ、その方がいいの?」
「それは嫌です」





さすがにそれは。ここまで生きてきてここで終焉なんてそりゃないよ。私はどんな物語でもハッピーエンドが好きなんだ。




「だから銀魂の世界にやることにしたよ君を」
「……は」




え、事実なら嬉しいけどさ。




「いいよね」
「……いやでも私がこのまんま会いに行っても神威に即殺される気がする」
「そこらへんは考えてある、だいじょーぶ」





えっへん、と子供。神様っつーより本当にまるっきり子供だ。大丈夫かこいつ。





「じゃ、行ってらっしゃーい」




と、何かをきく間もなく、ふわりと妙な浮遊感。そしてぐんっ、と急降下するような感覚。




「うっ、うわァァァァっ!!」





そしてだんだん遠のく意識。あぁ、目が覚めるのかなと思った。ずいぶんと変な夢だ。いつもこの瞬間は現実に戻るのが嫌になるがしょうがない。

覚ますとしよう。
















風が吹く音。

じゃりじゃりと砂の擦れる音が聞こえる。


なんだかやけにぼんやりした意識で目を開ける。


広がっていたのは荒野。

砂を含んだ風が吹きすさび、地面にいくつも何かが転がっている。




「…………あ、」




驚いて声をあげたがそれもかなり掠れていた。





死体だ。一面の屍。鎧を纏ったそれが砂を被って倒れている。





そしてその中に立つ一人の男。





「けっこうやる奴だったけど、詰めが甘かったな」





何かを呟いてペロリと手を舐めた。血、だ。





「―――っ」




立ち上がった。ふらふらする。そして自分の来てる服がいつものパジャマじゃなく、チャイナ服だ。しかも血まみれている。ああ、なんだ、まだ夢みてるのか?





男が振り返った。さっき笑ってた顔は驚きに目を見開いている。




「……なんで生きてるの」
「……?」
「さっき心臓を貫いた筈だけど」




何を言ってるんだ。この人は。

砂が絡んだまつげを擦る。ようやく視界がはっきりした。





男はにやぁと口の端をつり上げて笑った。




「面白いね」





その顔は見た顔だ。

テレビやマンガで何度も何度も。

オレンジ色の髪に碧眼、おさげ。整った顔立ち。





「――――な」






神威だ。神威が、そこにいた。





夢じゃない

やけにはっきりした意識と立体感をもった目の前の人物にようやくそう確信した。










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