気がつきました。




「ははっ」




見渡す限り血の海。
現れる敵を殺して殺して殺していく。

支配するのは高揚感。あぁやっぱり居場所は此処なのだと再確認する。下らないしがらみだったのだ所詮。

欲するは修羅が血。

ああつまらない弱過ぎる。もっともっと強者は、何処に居るんだ。何処に――

見えた。



「よォ」



阿伏兎。

お前などお呼びじゃない。最初から手加減して殺せなかったお前なんかに、用はないんだ。求めてるのはアイツだけだ。




「初めは可愛い面してたもんだが随分変わっちまって。お前――」




自分の手を見る。手は血に染まっていた。






「お前はもう立派な人殺しだよ――真月」














―――――――――――――……






「お姉ちゃん、お姉ちゃん」




――あぁ、これ何度目だ。いったい今日何度気絶したらいいんだよ。あのワン公今度会ったらぶちのめ…………いや無理かそれは。




「いやせめて……せめてバックドロップを……ぐっ」

「いったいどんな夢見たのお姉ちゃん」

「……あれ」





ぱちりと目を開けば煤けた天井。くるりと横を向けば幼い顔をした少年が居た。



「随分うなされてたよ。大丈夫?」
「……あぁ」




なんか夢でも見てたのか、覚えてないが。ワン公に二度も気絶させられちゃあいい夢なんて見られなさそうだけどさ。




「ここは、どこなの」
「貨物倉庫の中だよ。お姉ちゃんも売られてきたの」
「倉庫……」




ん?売られた?




「ちょっと待って。売られたって」
「俺、蜜月星から来たんだ。姉ちゃんは?」




蜜月って。なんだそのうざったい名前。

……なんだ、この子異星人だったんだ。

くりくりとした目がこちらを見ている。普通に地球人の子供と変わりない。





「私は……地球から」
「そっか……じゃあすぐ出られるよ。地球人は珍しいから高く売れるってアイツら話してたから」
「アイツら?」





あ、そうだあのワン公。




「ちょっ、そいつどこいったのバックドロップかましてやる!!」
「あっちょっと!」




立ち上がって出口らしい所へかけていった。それをふさいでいた布を勢いよくめくる。





「…………」





吹き荒ぶ砂風。見渡す限りの砂漠。ガタガタと不規則に倉庫が揺れる。





「…………ここ、どこ」
「それは僕も分かんない……此処がどっか遠くの星だって事ぐらいしか」
「………遠、く」





オイオイオイちょい待ち。




「なんでっ、なんで私がこんな所いるんだよォォ!!」
「お、お姉ちゃん!静かにしないと怒られるよ、危ないから取りあえずこっちに」




奥からちょいちょいと手招きをする少年。それでも私が放心状態でいると彼は慌てて私を奥へ引っ張った。




「……も、もうやだどうなって」
「よくわかんないけど姉ちゃん、騙されて売られたの?」
「なんなのさっきから売られた売られたって」




少年は大きな目を驚いた用に見開いて、それからため息をついた。




「僕ら、人身売買の商品になったんだよ」
「……は」




え、何それ。めっちゃ非合法じゃないか大丈夫なのか。…………あ、私がいたの犯罪組織だっけ。




「奴ら、各地からその商品を集めてこの先の会場で僕らを売るらしい」

「会場?」




そんな立派なもんなさそうだったぞ。砂漠しかなかったんだけど。




「こういう星の方が警察に見つかりにくいんだろ」

「………いやでも」



有り得ないと否定しようとしたが少年は真剣な目だ。



「も……もし売られたら、どうなるの」
「良いところで奴隷、じゃなければ生きるよりひどい目にあわされるだろうね」
「……」




脱兎のごとくかけだそうとした私をむんずと少年がつかんで止めた。



「帰る!私帰るゥゥ!!」
「お、落ち着いてってば、お姉ちゃん!」
「なんでせっかくトリップしたのにこんな目に合わなきゃいけないんだよォォ!!死ぬならせめて銀さんの腕の中で死にたい!!」

「下手したら殺されるよ!?危ないってば!」



その言葉にはたと動きを止めるとふーっと彼は息を吐いた。



「僕らは特に値が張るからって、特別に此処に入れられたんだよ。警護も他のとはけた違いだ。奴ら加減を知らない。抜け出すのも難しいよ。僕も酷い目にあった」

「――あんた」





子供にしてはやけにしっかりした口調だ。何モンだ、この子。

私が眉を潜めると彼は決まり悪そうにへへ、と笑った。




「得意なんだ、こういうの」








「うーん、どうしよう」



見つからないなぁ。



数分程船内を回ってるが見つからない。まいった、このあたりをうろついてるからとあたりをつけて来たのに。

最近浪犬(ろうけん)とか言う奴とその取り巻きがちらちらと視界に入ってうざったくて仕方なかった。弱い奴に周りをうろちょろされたってちっとも面白くない。

何故ならそいつらが俺ではなく、いつもその隣を気にしていたからだ。何をするつもりだか知らないがアイツは俺の獲物だ、誰にも渡しはしない。






――さっき見かけた筈だからすぐ見つかると思ったんだけど。ちょっと運動がてら捻ろうと思ってたのに。

ま、いいや。春雨の船内全て探す気はないし。




「闇オークション?」
「あぁ、なんでも今回の目玉は地球人らしい」



食堂の方へ踵を返そうとすると何か気になるワードが耳に飛び込んできた。



「しかもその地球人、うちから出したんだってなそれも」
「どっかから拾って来たんだろ。この間吉原に行ったばかりだしなァ。ひょっとしたらあの神威団長のとこの……」
「ああ、あの娘か。まァよかったじゃねェか。あそこには裏組織や政府の重鎮も通ってんだ。ここで暮らすよか贅沢な暮らしができるかもしれんぜ」
「はっ、よく言うぜ。金持ちのおもちゃにされるだけだろ。可哀想になぁあの娘」

「思ってもねーこと言うんじゃねぇよ」

「ははっ、こりゃ叶わねーなァ」



がはは、と笑う二人組。





「ねェそこのお二人さん」
「あ?」



振り返った二人は途端に表情がびしりと凍った。お返しににっこりと笑顔を向ける。



「良かったらその話、詳しく教えてくれない?」






-続く-

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