拉致られました。





「んぅ……」




頭が痛い。ガンガンする。



すっと目を開けるとぼんやりと見える。

大勢の天人。

まだ朦朧とはしているが動ける。どうにか立ち上がろうとしたが一向に体が動かない。




「……あ、れ」




見てみれば体を縛られていた。どうやら柱に縄でくくりつけてあるらしい。






「気がついたな」

「……」




ずい、と目の前に犬の顔。……わー。犬がしゃべってるすごいや。首輪にワンリンガルでもついてんのかな。




「うんおいでーわんちゃんいい子にしてたら酢昆布あげるよーよしよし」
「誰がんなもん食うかァ!!」
「うごぶ!?」





頭に猛衝撃。




「いったぁっ!てめっワン公頭割れたらどうすんだコノヤロー!!」
「ふん……ようやく気がついたか」





はっと暴言を吐いた後で気づく。やーさん並に怖い顔の天人たちに。




「………な」




はっ、そうだ。私確か………。




「ちょいと話が聞きたかったもんでな、此処まで連れてきたんだ」

「そうだ……どうしよう」

「分かったならおとなしく」



「戻んなきゃ団長に殺される」

「は?」



「アイツに食事追加分頼まれてたのに!遅れたから死刑にされるどうしようワン公ォ!!」

「名前みたいに言うな!俺が知るか!」




「こいつ相当なバカですぜ」
「……まぁいい」




ごほんと咳払いする犬。
てかよくないよ私にもプライドはあんだよ?




「お前、団長のとこの女だな」

「………え」




なんかよく分からんが……まぁ団長に拾われたって意味ではそうだ。




「……そう、ですが。それよりはなすのに縛ることはないんじゃあ」
「用心のためだよ。第七師団(おまえら)は何やらかすかしれたもんじゃないからな」




私団員じゃねーって。……じゃなくても類友にみられてるのかな。だとしたらショック。




「実は頼みがあるんだよ」
「……?」









「おまえに神威のスパイをしてほしいんだ」






「…………」




ぱちくりと瞬きすると犬の天人は続ける。



「神威の吉原での功績は知ってるな?」
「………ああ」




炎上編のあれね。

功績っつったって事実、あいつはややこしい事しかしてないような気もするが。



「あの一件であいつは吉原の利権を手に入れたのよ。元々化け物じみてやがったが権力も力も――あいつの存在はますますでかくなっていくばかりだ」

「……はぁ」




何がいいたいんだ。




「そこで神威の行動を逐一阿呆提督に報告してほしいんだよ。あんたアイツのお気に入りらしいじゃないか、楽な事だろう。もちろん報酬は弾むぞ」
「……え?アホ提督?」




そんな風に呼ばれる奴が提督とは……春雨も末ですな。




「どこに反応してんだよ。阿呆提督だ。――まぁともかく、切れすぎる刃は嫌われるという事だ」




にやりと笑うワン公。

――そうか。


ようやく合点がいった。


あまりにも神威が強すぎるから、仲間からも恐れられ疎まれてる、と。吉原の一件でますますそれが顕著になったと、そういう事か。




「あらら、嘆かわしいなァ」




どんな才能も妬まれ疎まれるもんなのね。宇宙一大きい組織でもそれは変わらないと。



「自分のことしか考えてないのねぇ。まぁ信用出来る奴でないのは分かるけど」
「何をぶつぶつ言ってやがる。イエスかノーか、はっきり答えろ」





悩むまでもない。ため息がもれた。




「そんなの……怖くて出来ませんよ。バレたら即殺されます。……団長の恐ろしさはあなた方も知ってるでしょう」

「俺達と春雨の幹部が守ってやると言ってるんだ」

「あなた達なんてあの人に比べりゃ怖くも何ともありません。それに、そう簡単に仲間にスパイ送り込む人を信用出来ますか」








「……ふん、思ったよりバカじゃねぇみてーだな」



そりゃどうも。
私が第七師団に染まらないうちに丸め込もうとか言う魂胆だったのかな。まぁ、どうでもいいが。




「だが状況がどうも分かってないらしい」
「がっ……!!」




衝撃に息が詰まった。ぐらりと意識が傾いた所をおまけにもう一発食らわされて再び私は気を失った。




「どうすんですか、この小娘」
「傀儡にならんと言うのならもう必要ないだろう――捨てちまえ」









ー続くー

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