食べました。




――次々となくなっていく。


大切なもの。もう二度と手中には戻らない。


守ろうと闘おうとも、立ちふさがる壁は大きすぎる。相手は夜兎だ。いくら私が鍛えられていようが叶いはしない。

何故。

何故あの人は―――










「何故この人はこんなに大量にものを食えるんですか」




そんな事を考えながら次々バクバクと団長の胃袋に消えてく食事を指加えて眺めていた。




「あれだけ強けりゃ消費するもんも半端じゃねェんだろうよ」
「だからってなんで私のもんも食うんですか嫌がらせですか」

「あれ、奢ってくれたんじゃないの?」
「違うわァ!!」




いやこいつが大食いなのは知ってたけども!やっぱリアルで見ると引くよ。だって軽くパーティー開けるくらいの食事一人で吸い込んでるものバキュームしてるんだもの。



「ずっとそんな物欲しそうな目で見てるなよ。ほらこれで買ってこい」
「あ、阿伏兎さぁん!」
「ひっつくな暑苦しい」




いや団長この間のでちょっとトラウマってたから文句言えなかったんだよね。いやぁやっぱり夜兎は怖い。でも阿伏兎さんは優しい。



「一生阿伏兎さんについて行くわ私!」
「へいへい」
「あ、ついでに俺のも追加買ってきてね」
「アンタまだ食うの!?」
「遅かったらどうなるか分かってるよね?」



うぐっと恐怖に顔をひきつらせて早足で女は去っていった。あいつ足は速いんだな。




「あぁ見てると普通の人間だネ」
「普通だろうよ。まァちょいとばかし頭が軽いが」




俺との修行の事を忘れてるのかあいつは。自分を傷つけようとした相手に笑顔まで向けやがって。



「で、どうだったの。修行は」
「………俺を投げた上に反撃を避けやがった」
「へー」



ニヤリと団長が笑った。同じ笑顔でも、あの銀髪頭の侍をみた時とおなじ眼をしてやがる。困ったもんだ。



「戦いにもでた事のない地球人が夜兎の一撃を避けた……ね」
「殺さねー程度に加減はしたが、当てるつもりだったんだぜ。まァ、偶然かも分からんが」




すごい勢いで食事が減っていくのを眺めながら修行の光景が頭を掠めた。

面白いと思う。が、あの程度の逸材ならどこでも転がってる。なのに気になるのは何故か。

あの侍やこいつの妹に似ている、それでいて何か、違う。そんなものをあいつは持っている気がする。





「偶然が二度か。それはそれで面白い」
「おいどこに行くんだ」



平らげて、ひらりとテーブルを越えてスタスタとどこかへ向かう団長。これから仕事だってェのによ。



「追加分が来る前にちょっと腹ごなしの運動〜」






「……ったく」



姿が消えた後振り向いていた姿勢をもどす。



「……この皿誰が片付けんだ」



何人分食ったのかずらりと汚い皿がそこかしこに並び積んである。いくら上の尻拭うのが下の役目とか言ってもこんなのァごめんだ。後でアイツにでも任せて――




「……そういやあいつやけに遅いな」




いったいどこまで行ってんだ。














―――――――――――――……





「ふー」




途中で催したために用を済ませた。神威団長なら時間がかかるからとキッチンの人に言われたからどうせならってね。あの人の大食いは春雨内でもかなり有名らしい。



「うあー腹減った」



もう昼すぎてるよ、お腹が鳴りそうだ。酢昆布を変わりにポリポリ頬張る。どこに持ってたかって?こっち来る前からバッグん中入ってたよ一応。銀魂マニアはみんな持ってんじゃないかな。あれ、偏見?




「よお姉ちゃん」
「……ん?」



私のことか。

そんな風に呼ばれたのは何年ぶりかねと振り返ればずらーっと強面の天人集団。びきりと顔が固まる。




「ほー、活躍してる割には随分と貧相なモン食ってるんだなァオイ」

「………なんですか、連れしょん……ですか」





と、かろうじて聞き返した。此処、女子トイレだけど。




「んなのに用はねェ。ちょっとついてきてくれるか?まァ――」




後ろに気配を感じた。

振り返る間もなく口がふさがれる。ぐっと息がつまりじたばたともがくも男数人相手だ。……あ、れ。意識が、




「――答えは聞いてねェがな」




かすかにその言葉だけを聞き取ったのを最後に私の意識はブラックアウトした。







ー続くー

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