修行しました。
さってと。じっとしてたら腕がなまっちゃいそうだし暇だし。
「やりますかね」
道着じゃない分なんか気が引き締まらないがまぁしょうがない。
「それにしても、阿伏兎のおっさん。ほかに服無かったの」
「ワガママ言うな。地球人のお前さんが夜兎と同じ服着れるだけでも有り難いと思え」
春雨の船はかなり広く、家と違い練習する場所には事欠かない。
しかし服はなんかださいのかチャイナ服かの選択肢しかないなんてちょっと両極端すぎないか。
「人生は選択肢の連続なんだよ」
おっ、生で聞くとやっぱ違うな。思わずにやりとするとまた怪訝そうな顔をされた。
「つかださいのってなんだ俺が来てる奴の事じゃねぇだろうな」
「どーでしょうね?」
だって空知先生服のセンスだけは微妙にないんだもの。そらなんとか灰色マンとか女の子の服みたいな名前のマンガとかに比べりゃ着たいなぁと思う服はあんまない。
「いやぁ、だけどコスプレみたいでいいかもなこれへへへ」
「どっちだよ。……で、修行するんだろ。さっさと終わらせろよ」
「いやそれには阿伏兎さんにもつきあってほしいんだけど」
「あ?」
いや私だってむさいおっさんより神威とやる方がいいかなぁなんて思ったけどさぁ、あの人勢い余って「あ、殺っちゃった☆」なんてことになりかねんじゃないの。
「一人でやりゃあいいだろう。なんで俺が」
「いや合気道は一人じゃ練習出来ないから」
一人じゃ精々足の切り替えとか受け身とか、基本的なことしかできない。木刀もなさそうだし。
本当は相手も合気道やってる人がいいんだけどワガママは言うまい。
「面倒だな……」
「あんたの上司がつれてきたんだから文句いわなーい。じゃ、力抜いて、両手で私の腕掴んで」
言われた通りに阿伏兎が腕をつかんだ。ちゃんと力は抜いてくれてるようだ、うん。
ここから円を描く用に腕を回し、相手の肘を取る――――
「…………っちょ」
「あ?」
あ?じゃねー。びくともしないんだがなんだこれ。
「ちゃんと力抜いてつったじゃん」
「抜いてるぜ。お前さんの力が弱いんだろ」
「いやいやいや!」
これでも段持ちだよ!?怪力とは言い難いけどもそれなりに遠慮しないでやってんだから動かないなんてことは。
「……夜兎をなめてましたね」
「だから言ったろ」
はぁ、と息を吐く阿伏兎。ちょっといらっとしたので
「はぁッ!!」
「うお!?」
投げてやった。お、案外飛ぶもんだ、不意打ちとは言え。
「っと」
ざざっと、とっさに受け身をとり立ち上がる阿伏さん。うん、さすが一筋縄ではいかんか。
「おい、いきなりなんなんだ」
「やっと力抜けたから投げたまでです」
「嘘つけ途中で技変えたろ」
「はっ、何故バレたし」
おっさんをナメるんじゃねーよ、と阿伏さん。いちいちムカつく野郎だ。
「おゥ……じゃあこっちの番だな今度は」
「え」
にやりと笑う阿伏兎。あれ、なんかデジャヴ。
「夜兎を相手にした時から勝敗は決まってんだよ」
「い、いや私喧嘩しにきたんじゃないんで」
夜兎ってのは血の気な多い奴ばっかか。もう目が戦闘モードなんですけど怖いんだけど。
「じゃあすみませんこれで失礼しましたー」
「まァ待て」
「ぎゃあ!!」
ずぉぉん、と地響き。
私の足の真横にはバズーカでもくらったのかというほどの大穴。血の気が引いた。
「ひぃぃぃ!」
「やるじゃねェか。こりゃァ団長が言ってたよりデカい器かもしんねーな……ってあれ」
女は姿を消していた。逃げ足が早いらしい。
「……ちょっとしたお戯れのつもりだったんだがなァ」
まァいいか。
しかし団長の言う通り、これから先が楽しみだなこれは。
.
「ふーっ、逃げ切ったか」
振り返っても陰はない。長い廊下がただ続いているだけだ。
ったくもう、おっさんったらすぐ本気になってさぁ、バカじゃないの。
「ま、私の手にかかればあんなもんか」
ははは、と笑ってるとどんと誰かがぶつかってきた。
「のわっ、いてっ」
なんだよ、ときっと睨み返すと何やらデカい人影。
「ぼさっと突っ立ってんじゃねェよ、あぁ?」
でかいワン公がいた。いや、狼?どうも天人らしい。こええよでけーよ何あの目つき。ビームでも出したいの。
「す、すみませ……」
ガクブルしながら言うとふんと鼻を鳴らし去る天人。
ほっとすると同時になにやら声が聞こえた。
「ったく春雨の雷槍だかなんだか知らねーがでかい顔しやがって」
でかい顔してるのあんただろーが。てか聞こえてるんですが。
「でも、第七師団はあの夜王を倒したんでしょう。大した奴じゃないですか」
「ただのケダモノだろうよありゃあ。雷槍どころか、春雨にとっちゃ諸刃の刃だ。どうなることやら」
……夜王を倒した?
ってことは吉原炎上編のことをいってるのかなあいつら。
「吉原、かぁ」
そう言えば私がこちらに来た時のあの光景。
着物の女達、長い廊下。
まるでそのさなかに私がやって来たみたいじゃないか。
「………マジ、でか」
ひょっとしてあれは清太を守りながら闘ってる時か、そこまで行くまでの道中なのか知らんが、その時に私が現れたというんだろうか。
「ちょっと待って!じゃあそんな大イベントのさなかに私はのんきにのびてた訳!?銀さんの勇姿も月詠さんや日輪もみれずに!?」
もったいなさすぎるゥゥ!せっかく来たんなら生でみときたかったよ、これじゃただの倒れ損じゃないかァァ
「うぅ……」
「何をまた一人で訳わかんない事言ってんだ?」
「ぎゃ!?」
ばっ、と振り返るとそこには阿伏兎の顔。
頬をひきつらせる私を見てか阿伏兎はため息をつく。
「襲いはしねーよ。お前さんみてーなもろい生きモン、間違って殺しでもしたら団長にどやされちまう」
「………そうですか」
じゃあなんでそんなもろい生き物を拾ったりなんかしたんだろねェあの団長様は。まぁおかげで命拾いしたとは言え、まるで人をものみたいに。
まァあれだけ強けりゃワガママにもなるだろうしそれを使うことも楽しくて仕方ないのはわかるが。
全くため息をつきたいのはこっちだ。
「言ってくれるぜ。いつもあんな上司に振り回される俺の身にもなってみろ」
「そうですか。お互い大変ですねぇ」
夜兎にしては立ち回りが上手いからな、阿伏さんは。
「そろそろ昼飯の時間だ、案内してやる」
「わぁご親切にどーも」
碌に修行出来なかった気がするが、
まいっか。
「――また将来(さき)の楽しみが増えるたァね」
「何か言いましたー?」
「……いや」
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