着たばかりの隊服は勿論脱いで、目立たない女物の薄い着物を着た。

潜入捜査としては刀は置いていく事が望ましかったが、念の為に持って行けと土方さんに命令を受けたので帯刀している。





「…………」





じっと、目的の店を見つめる。そこは周りよりは明るいものの、本当に風俗店か疑う程ひっそりとしていた。客引きもいない。しかし何人も客が入っていくのは確認済みなので間違いはないだろう。




息をついて、顔を隠す為外套を頭から被り、何も書かれていない無地ののれんをくぐった。










「いらっしゃい。初めてのお客様でいらっしゃいますか?」





出迎えたのは中年位の男だ。商業様の笑顔を顔に貼り付けてだみ声で聞いて来た。





「はい」





短く答え、くるり、とあたりを見回す。外と同じく中もひっそりとした雰囲気だが以外と造りは広く、奥を見れば襖がずっと向こう側まで地続きに並んでいた。

その手前には階段がある。店員が出てきた所はその横についている扉からだ。

即座にそれらを記憶しつつ、頭に被せた手拭いをするりと外すと店員の目が驚愕した様に見開かれた。

怪しまれたのだろうかと思いながらも冷静に問いかける。





「どうかしましたか」

「……あ、いえいえ。あんまりにも美人さんだったもんだからついねぇ。すみません」





そう笑う男だが私の腰の物を見るとふと瞬きをする。





「それ、本物の刀ですよねぇ?もしかしてあなた……官吏様ですか」





目敏いと内心で驚く。だが、疑われているかどうかは表情からは伺えない。

私はわざと息を吐いて、店員を見やる。





「官吏が、男を買ってはいけませんか」





すると男は虚を突かれた様に瞬きをする。





「……ははっ、飛んでもねぇ!寧ろ大歓迎でさぁ。

一番人気の奴でも初めてなら料金も割安にしときやすぜ。どうしますか?」




私の言葉を軽く笑い飛ばして男は進言して来る。

どう、と言われても何も経験がない私ではなんと言うべきか見当もつかない。

初回ではそんな客も多いのだろう、男は慣れた様子でこう提案して来た。





「最近新しく入ってきた奴がいるんですが、これがなかなかの美男子でねぇ。生息子だし、お勧めしまさぁ。どうですかお客さん」


「では……その人を」


「かしこまりました」





部屋はどうするか、他にもオプション等々、色々な話が出たが、信用させる為もあって一番高い部屋を選んだ。

階段を上り、案内されながらやたらニタニタと厭らしい笑みを浮かべる男に生理的な嫌悪感を覚える。ここの店員はみんなこんな人間なんだろうか。

ちらりと山崎さんの顔が頭を掠める。そう言えば先に潜入していた筈だが今頃どうしているだろう。





「こちらでさぁ」





二階の奥、ふすまが金で縁取られた部屋を男が指す。しかしそのまま入ろうとすると止められた。何だろうと見返す。





「お腰の物、お預かりしますよ」

「……刀は手放せません」

「お侍様にとって刀は命と言うのは分かっておりますが、何分決まりなんでね」





へらへらと笑い媚びる男を無視しかけたが、悩んだ挙げ句、預ける事にした。疑いをかけられ計画が破綻するのだけは避けたい。





「では、ごゆっくり」





その言葉の意味を考えるとため息が出そうになるが、なんとか噛み殺す。

――勿論、土方さんからは寝なくてもいいとは言われている。むしろ、寝ないでくれと言うような口調だったが。


必要とあればそれも吝かではない。


男が去ったのを見計らって、私はようやくふすまを開けた。










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