副長室に入るとすでに二人とも畳に座って待機していた。

土方は何故か渋い顔をしていて刹那に席に着くよう指で指示する。

刹那が大人しく座ると山崎が耐えかねた様に口を開いた。




「あの……俺達に話ってなんですか」





たち、と一括りにされている事に些か違和感を覚えたが、一緒に呼ばれたと言う事はそう言う事なんだろう。

土方が重そうに漸く口を開いた。





「……新人のおめーにこんな事言いたかねェんだがな」

「……は」





刹那は言い渋る様に妙な前置きをする土方に聞き返した。

その姿勢からなんとなく山崎ではなく刹那中心の話なのだと察するが、何か気に病む様な内容なのだろうか。

土方は間を置いて思い切ったように、簡潔に用事を言葉にした。





「潜入捜査だ。どうしても挙げてェ奴がいる」





刹那は内心で軽く驚き、山崎はそれを隠せない様子で目を見開いていた。





「……それは山崎さんや監察達の仕事では」





刹那がふと疑問を口にすると苦り切った顔で土方が頷く。





「もっともだが、今回ばかりはおめーにしかできねェ仕事なんだよ」

「えっ、じゃあ俺はなんの為に呼ばれたんで?」

「それはこれから話す」





土方は懐から地図を取り出すと畳に広げ「ここだ」と一点を指で示した。刹那と山崎は顔を寄せその場所をのぞき込む。





「芳町……ですか」





そこについて名前位は知っているが、行った事がない為どんな場所かは知らなかった。

刹那がちらりと山崎を伺い見ると、彼は地図を見た途端、はっとしたように目を見張ってばっと土方さんの方に顔を上げた。

刹那もつられるように土方さんを見る。





「……ま、まさか副長…」

「………」





土方が気まずそうに顔を歪める。

分からないらしい刹那が視線で説明を求めると、「その、なんて言えばいいかな……」と山崎が言いよどむ。





「この場所ってある商売が栄えてるところでね、その…」

「簡単に言やぁ……男娼街だ」





言い切った副長に刹那は無表情のまま瞬きを返した。

聞き慣れない言葉だが――流石に意味は分かる。

刹那は合点がいったので頷いて、念の為に確認した。





「それでは、その町の男娼館に客として私が潜入するんですね」

「……ああ」





俯いて、妙な間を空け肯定する副長に刹那は首を傾げた。





「……何か、まずい事でも?」

「何って、お前……」





聞くと土方は逆に驚いて、言わなくとも分かるだろうと呆れた風にに刹那を見た。

それにさらに刹那が首を傾げると、山崎が「あ、えっと、それで内容は?」とたどたどしく話を変換させた。

土方がため息をついて説明を始める。





「…この町で稼いでる大物の商人でな。攘夷浪士にも手ェ貸してるらしいがなかなか尻尾を出しやがらねェ」





土方が地図にその商人が見えたかの様に芳町と表記されている場所を睨んだ。

この町で稼いでる、と言う事はその商人は主に男娼を収入源としていて、土方がわざわざそこを潜入場所として選んだからには、それ以外に潜入する余地がないのだろうと刹那は推測する。

それとも、他の事に人員を割いているのか。

――いずれにせよ刹那には関係のない事だったが。





「山崎は店に、鏡は客としてそいつを探れ。情報は随時報告し頃合いを図って御用改めだ。――ぜってェ逃がすな」


「はい」




普通ならそこらの男でも竦みあがる様な視線を受け止めて、刹那は頷いた。山崎も慌てて返事をし、ふと疑問に思ったのか、副長に声をかけてそれを口にする。





「あの、せ…鏡さんじゃなくともあそこはその、一応……男も客として行けるのでは」





じろりと睨まれ山崎は若干体を竦ませたが、土方は息を吐いて説明を承る。





「客は女が多いから目立たない…以外の理由か?

潜入捜査で使えるのは今の所てめーだけだ。だが客としての視点からの情報も欲しい。客なら相手も口が軽くなるだろうしな……それが女なら、尚更だ。それにうちじゃあ誰もやりたがらねェってのもあるな」





土方が苦りきった顔でため息をつく。





「あ…あの、じゃあ俺が代わりに」


「じゃあ代わりに鏡が店員として行くのか?あそこは女の店員がいねぇ。どう考えてもこいつじゃ目立ち過ぎて仕事にならねーな」

「……あ」





納得した様子の山崎だが、刹那はまだよく分からないようだ。





「…あの、もう少し詳しく説明して頂けませんか」





するとまた妙な間が生まれる。





「……お前は見た目がな」





顔をしかめた土方が漸く呟いたが、刹那はまた首を傾げる。さらりと髪が流れて彼女はそんな何気ない仕草でさえ優雅に見えた。

なにか自分の顔におかしい箇所があるのだろうかと、彼女は顔をさわってみるが余計に土方の眉間の皺が深まったので、すぐに手を離した。





「あ、あの……鏡さんはその……美人、だから店員としては目立つと思う……って事だよ」





僅かに頬を紅潮させた山崎がそう言った。刹那は少し目を見開く。





「…私がですか」

「……はぁ」





土方がため息をついた。疲れているのだろうか、と空気の読めない刹那は思った。

釈然としない様子の彼女になんだ、と土方が返す。





「……いえ。美人、とは言われた事がないもので少し驚きました」





すると二人は口を開けて驚愕し、同時に目を見張った。

山崎は「…嘘だ」と呟く。

ますます刹那はわけが分からなくなった。






「……それに客としての方がまだやりやすいだろ」





刹那の反応を無視して土方が続けた。

山崎も引き下がる事にしたのかそれきり口を閉ざす。


刹那は山崎は何故自分の代わりを志願したのだろうかと、少し疑問に思いながらも今考える事ではないと判断し頭から追い払った。





「場所は地図に記してある、持って行け。鏡は潜入するまで休んでいい。山崎は直ぐに芳町まで行って潜入し次第連絡しろ」




地図を渡されたのを合図に副長室を出、山崎は外に、刹那は時間まで確認と用意の為部屋で待機する事となった。









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