「山崎」
「あ、副長!ちょうど今向かおうとしていた所です」
「あ?」
向かい側から歩いて来たらしい副長は、近くに来ると立ち止まって、怪訝そうに眉をしかめて刹那さんを見る。
刹那さんが怖がりはしないかと少しはらはらしたが、彼女は依然として副長に向き直り
「鏡刹那と申します。この度は宜しくお願い致します」
という丁寧な言葉と共に頭を下げる。
しかし副長は慣れない堅い挨拶に戸惑った様子でぽりぽりと頭を掻き、目で説明しろと訴えかけて来たので、俺はこっそりと耳打ちする。
「女中の面接を受けに来たんですよ、連絡くらい入ってるでしょ?」
「…面接?んな話聞いてねーぞ」
「ええ?」
驚いて後ろの刹那さんを見るが彼女は少し瞬きをしてから首を傾げた。(相変わらず無表情なので少し滑稽に見えた)
「そんな筈は…
昨日連絡をしたら明日此処へ来てくれと確かに言われたんですが」
「あら、二人そろってこんな所で立ちふさがって。一体何してるんです?」
見ると沖田隊長がアイマスクを額につけてこちらを見ていた。
またサボってたなこの人。
「…総悟、またサボってただろお前」
「んな訳ねーでしょう、疑り深い人だ。
俺ァちゃんと甘味処とか茶屋とか川べりを中心に巡回してましたぜィ」
「用は甘味堪能して川辺で昼寝してただけだろうが!!」
「…あの、実はですね今この人が面接受けに来たんで副長に話したんですけど、どうも連絡が行き着いてないみたいで…」
このままだと脱線しかねないので取り敢えず話を元に戻す。
「面接…?
…あ、アレか」
「心当たりあるんですか?」
「ああ。昨日電話があったのすっかり忘れてた」
「テメェェ…」
わなわなと拳を震わせる副長を何とか抑える。
貴重な女中志望者をこんな事でふいにされちゃあ困る。只でさえ人手不足だと言うのに。
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