「いやぁ、やっと見つけたよ刹那さん」
「……山崎さん。私に用ですか」
隅で静かにしていた刹那さんに声をかけると彼女はそんな風に言って俺を見た。
くすりと思わず笑みを零す。
「当たり前だよ、誰の歓迎会だと思ってるの?はい、杯出して」
「……どうも」
歓迎会なんて名はどこへやら、広間内は三十分とも立たない内に歌えや踊れのどんちゃん騒ぎになった。
大勢がいるその中で一人を見つけるのは藁から針を見つける事と等しいように思えたが、人混みをかき分けてようやく見つけた時はほっとした。
トクトクと注がれる日本酒を見つめる刹那さんは目を伏せていて、長い睫毛が下瞼に影を落としている。
そんな何でもない表情でさえ、彼女だとうっとりするほど綺麗だ。
ぼうっとなり始める頭を慌てて振って、じゃあ乾杯しようかと俺も杯を掲げる。
こくりと頷き刹那さんは杯を前へ差し出す。
「乾杯」
チンッと言う音がし、すぐにぐっと飲み干した。
瞬間――喉に焼けるような痛みを感じて、人間噴水になったかと思うくらい俺は酒を盛大に吹き出した。
「ぶっ!?げほげほげほっ!!」
「……山崎さん、大丈夫ですか」
問いかける刹那さんに大丈夫と手を上げて合図する。
慌てて口を横に向けたから刹那さんに被害が出ず済んだものの……。
声なんて出る筈もなくゲホゲホと続けて俺は夢中で咳込んだ。
何でだ、間違ってアルコール度数高いやつをもって来たんだっけ!?
もがき苦しみながらちらりと見るが、そんなに高いやつではない。いや日本酒だから少々高いかもしれないがそれにしたってこんなむせるほどじゃな――
「よう、どうでィ特製の酒の味は」
ようやく落ち着いて来た所で現れたのは沖田隊長だった。
「お、沖田たいちょ……げほっ」
あんたの仕業かっ!という叫びも今や言えない。隊長はさらりと涼しい顔で続ける。
「うちにある鬼嫁の何本かを宇宙製、アルコール度数98パーの酒に変えといたんでィ」
「きゅっ……98ィィ!?殆どアルコールで出来てんじゃないですか!?」
「ぐっ……と、トシ。俺の後は頼む、ごぼっ」
「ぎゃああぁ!!局長が酒飲んで倒れたぁあっ!!」
「局長ォォ!?」
「刹那は平気な顔してやがんな。ぎりで飲まなかったか畜生」
「あんた新人になにするつもりだったんですか!?」
「局長を運べェェ!!」
あちこちで悲鳴が上がる中、まともだったのは刹那さんと沖田さんの二人だけだった。
とりあえず彼女が犠牲にならなかった事にほっと胸をなで下ろす。
「良かったね、刹那お酒飲まなくて。危ない所だったよ」
「このお酒そんなにまずくないとは思いますが」
「本当に沖田隊長も…………って、え?」
聞き逃しかけて思わず刹那さんを見た。刹那さんは顔が赤くなるとかいった事もなくいつも通りで、次にばっと下に視線を移すと、酒のない空っぽの杯がそこにあった。
「……もしかして、飲んだの?」
「ええ」
「……性格変わるとか倒れるとかねーのか。吐くとかよ」
「た、たしかに」
あれだけ高いアルコールに身体が拒否反応を示さない上に酔うこともないとは。強いとかいう次元じゃないだろう。
「何もないですが」
「ちっ、面白くねェ。だったらもっと飲め山崎」
「なんで俺ェェ!?」
そんな俺の抵抗も虚しく口に酒瓶を突っ込まれた。
殆ど消毒用と変わらないその酒の味を感じた瞬間――俺の意識は闇に遠のいていった。
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