近藤さんが駆けつけてなんとかそれを治めた後副長は見回りに山崎さんも仕事があるとかでいなくなった。私もその場を去ろうとして、いつの間にかいた沖田隊長に声をかけられた。
「何でしょう」
「お前どうせ持ってねェだろ」
そう言って差し出されたのは携帯電話だった。シンプルで黒色。まさに真選組を表してる様な。多分支給品だろう。
いつの間に買ったんだろうと不思議に思っていると「近藤さんが買ってきたんでィ」と言われ納得がいった。
「俺の連絡先は入れてある、じゃあな」
それだけ言って隊長はすたすたと去って行った。
我ながら慣れない仕草で暫くの間それを弄くって連絡先を確かめた。確かに沖田隊長と近藤さんの連絡先が入れてある。
しかし何故か副長の連絡先はなく、後で聞こうと頭の隅でメモを取りながら携帯を閉じた。
何だか不思議な気分だ。今まで携帯など持った事がないし必要もなかった。第一、連絡が要る相手などとうの昔にいなくなっている。
「……」
此処で必要になるとはなんと皮肉な事か。
携帯をポケットにしまい込み、そろそろ自室に戻ろうと踵を返すと目の端に何かが映った。
視線を移すと隊士達が玄関の方で何か言い争っているみたいだった。
怪訝に思い其方に足を向ける。
「だからもう少し考えて――」
「どうかされたんですか」
後ろから声をかけると隊士達はびくりとして此方を振り返った。
「か、鏡さん…」
隊士達は私を見た途端に気まずそうに目を逸らした。
内一人は嫌な物でも見たかの様に背を向ける。
「…あなたは確か」
隊服ではなく着物を着ていたが、その背を向けた彼には見覚えがあった。
確か私が面接に来た時初めて手合わせした人だ。
「何を言い争ってるんですか」
「…俺の気持ちは変わらねーから」
彼は私の問いを無視してそう言い捨てて去って行った。
私は内心で首を傾げて残った二人に目で問いかけるも彼らは俯いたまま顔を上げない。
「…あ、あの、じゃあ俺ら仕事あるんで…」
気まずさに耐えかねたのか二人共慌ててその場を去って行った。
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