「あ」





副長室へ向かう途中、山崎さんに頼まれた書類がはらりと宙を舞った。風にさらわれそれは数歩先へ落ちる。オマケにぱさっと中身が散らばったのですぐに駆け寄った。





あちこちに散らばる様なことはなかったので、かき集めるのに時間はかからなかった。床でと端を整えて封筒に直そうとするが、そこで私の手がぴたりと止まる。




好奇心が疼いた訳ではない。そんな感情はとうの昔になくなっている。

ただひょっとしたら私の求める情報があるかもしれない――そう思った。



書類は全部裏向きに落ちていたので中身は分からない。それに探るのはもう少し此処に馴染んでからの方がいいと思ったからあえて何もせずにいたが。





「……」





逡巡しながら、それを裏返した。がその字が目に映るよりも早く書類は誰かの手によって取り上げられた。









「何してんだお前」






顔を上げれば怪訝そうにこちらを見ている副長がいた。少し驚いたが私は自分がしゃがんでいる事を思い出して、何でもないように立ち上がった。





「書類が風にさらわれてしまって、拾っていました」


「…ああ、そうか」





副長は表情を和らげ気まずそうに頭を掻いた。私を不審に思っていたんだろう。あながちその判断は間違ってはいないのだけど。

私は副長に自分の書類を渡す。「ご苦労さん、早かったな」と労いの言葉をかけるとともに彼はふと山崎さん書類に視線を移した。





「刹那さん、ごめんっ!!その書類間違って」




山崎さんがかなり急いだ様子で現れたがそこで言葉が切れた。その視線は副長の手元にある書類に注がれている。何故か汗だくだ。






「山崎ィィィ!!」


「すみませェェん!!」





副長はあだ名通り鬼の様な形相で振り返ると逃げる山崎さんを追いかけていった。


そんなに大切な書類だったのだろうか。






「テメェしかもなんだ!?この報告書殆ど作文じゃねーかァァ!!」








躊躇いなく副長は山崎さんに暴行を加えている。見ていないから分からないが、だからと言って殴る程の事なんだろうか。




やはり妙な人達だ、と刹那は改めて思った。







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