るのは一面草ばかり。

俺がいたのはそんな村。





人も数える程しかいない。そんな所に俺が来たのもいわゆるビジネスのためで、なんでもここでしか採れない植物でいい薬が出来るのだとか。

それを商人から奪い取る。相手も戦闘民族を雇うなどしていると聞いたから期待して来たもののあっさり終わって、大した収穫もなかった。

出発までの暇つぶしにぶらぶらしていてもこんな所ではなんにもなりゃしない。



帰ろうかと思っていた矢先だった。




「こんな所で何してるんだいお嬢ちゃん」





ふと目に入った光景。汚らしい男がなにか子供に話しかけている。人買いか何かだろう。



「こんな所にいたら死んじまうだろう。どうだいおじさんと一緒に来ないか、いい思いをさせてあげるよ」



後ろには何人か天人が居た。闘い慣れてそうな風貌だ。ちょっと興味が沸いた。ひょっとしたらこれはいい暇つぶしになるかも――そう思った所で地球人が下卑た笑いを浮かべ、その子供に手をのばす。




「がぁっ――!!」




悲鳴。何事かと目を見開いてよく見れば、地球人の腕の切り口から血が大量に吹き出した。

視線を移せば子供の手に血にまみれた小さな刀があった。

へぇ、と思わず口端がつりあがる。




「てめぇっ……!!」




その天人が子供に襲いかかる。子供はそれに冷静に構えたようだったが、あの人数だ。ここで逸材を傷つけてもらっては困る――だから今度は俺が阻止した。

そいつの首がホームランしたみたいに彼方にすっ飛んでった。他の敵が呆気にとられる間もなく、他の天人数人を手刀で貫けば次の瞬間には皆血飛沫を上げ地面に倒れた。生きているのは子供だけとなる。思ったより呆気なかったなぁと残念に思いながら肩をすくめた。子供はただ刀を握ったまま静止している。




「やぁ、大丈夫?」




笑顔を浮かべ手を差し出す。子供の表情はうつむいているため見えない。あれほど血を浴びたというのに微動だにしないとは大した器だ。





「――あり?」





目が見えた、と思えば今度は俺の手から血が吹き出した。差し出された手に深々と刺さったそれを他人ごとのように眺める。ようやく子供の顔が見えた。憎悪と殺意と敵意。無表情で荒んだ暗い眼。明らかに子供の顔ではなかった。ぞわりと背中が粟立つのを感じる。

――戦いに慣れた修羅の眼だ。




子供は一瞬でその場を去った。足も速いらしい。追いかける事も出来たが、それもしないで剣を腕から抜く。




「うーん、やられちった」




俺に一太刀浴びせるとはなかなかやる。だらんと垂れた右腕。いつも以上に笑みが浮かぶのを止められなかった。




こんな所で大した収穫だ。



「団長、どうしたんだその形は」
「阿伏兎、帰ったらこの村調べといて」
「あ?」
「なんとしてでも、見つけるんだ」




春雨に連れて帰る。でなくてもあいつならばいつか俺と会う事になるかもしれない。





「楽しみだね」





にやりと笑った。

今度目の前に映ったのは草ばかりの村などじゃない、新たな修羅との戦場。





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