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銀時は顔をひくつかせた。

その男はどうもお侍さんらしかった。長い髪に腰には真剣。そして何より、




「かっこいい……」
「…………え?なに?こいつのどこが?ただのテロリストだぜこいつ。バカだぜこいつ」




するとお侍さんは驚愕に目を見開いた。



「俺が攘夷志士と一目で見抜くとは……さすが噂に違わぬ腕だな」
「いや志士なんて一言もいってないんですけど」

「国を変える者として、はやりの占いも把握しておかねばならぬ。実はこの国の行く末を視てもらいたくてだな」
「なにそんなスケールのでかいもの一介の占い師に聞こうとしてんの」
「あ、あのこちらは個人の占いしか承っておりませんので……」
「む、そうか。よくわからんがとりあえず頼む」




――と言われても占いなどなにをするか分からない。




「そ、そのとりあえずお名前を……」
「桂小太郎だ」
「ヅラ小太郎ですか。よしみてあげましょう」
「ヅラじゃない桂だ」
「…………」




どうも知り合い、らしい。だけどこの人はそれをお侍さんに知られたくないようだ。

しかし占いなど出来そうもないこの人に任せるのも些か不安がある。どうしよう――と聖は悩んだ。


―――あ、そうだ




「あ、えーと、すみません……師匠」
「………え、なに?俺のこと?」




なんと呼べば分からなかったので自分を占いの弟子ということにしてそう口にした。死んだような目を向けられて若干慌てる



「そ、の。此処は私に任せて頂けないでしょうか。過去を視るなら私もよく出来ます。一人の人を占うのなら私がやっても差し支え、ないかと」

「………ああ、そうだな」



驚きながらも正直面倒だしな、と銀時は立ち上がる。



「………お手、を」




真剣な様子の少女に桂は神妙な顔になりうむ、と頷いて手を差し出してきた。

すぅ、と聖は息を吸い、ゆっくり吐く。

―――大丈夫。コントロール出来る。落ち着いて、落ち着いてやれば、なんてことはない。



そんなに緊張しなくても、と銀時は呆れた。頼まれたからにはやらなければ、とか思っているのかもしれない。少なくともそれくらい真面目な性格に見えた。

聖が桂の手を取る。



「―――っ、」



一瞬彼女は辛そうに眉を顰めたが、ぎゅっと目をつぶり何かに耐える様に深く深呼吸を繰り返した。





「―――あ、なた、は」





途切れ途切れの言葉に銀時も桂も面食らったように押し黙った。演技にしてはリアリティがあった。




「――し、指名手配犯……?」
「な」
「白い、ペンギンのような――エリザベス……」




さすがの銀時も目を見開かずにはいられなかった。桂も、そうだったらしい。





「仲間のための、攘夷――よ、しだ――」
「――――」




銀時も桂も、息を飲んだ。





やめろ、それ以上は――と言おうとした矢先、聖はぱっと目を開いた。





「大丈夫です」
「……え?」




先ほどと違いいやにハキハキと答えたので二人ともまた驚いた。




「あなたは人望もあるようですし、茨の道ではありますが、人の道さえ間違わなければ必ずや目標は達せられるでしょう。」

「そ、それは真か!?」

「ええ……フシギな縁が幾多にも絡んでるのが見えました。時にはそれに足が絡め取られる事もありましょうが、その縁があなたを支え、助ける事もありましょう。

歩き方さえたがわなければ蜘蛛の巣でさえも足場になるということです」




いやに滑らかにそう言った。桂は感動したようで「そうか、そうか」と幾度も相槌を打っていた。




「それから……」
「なんだ?」
「お仲間……の、エリザベスさんですか――は、志士たちと共に博打に出かけたんだと、思います」
「なにっ!あいつ……かたじけない、帰りが遅いので心配してたのだ。世話になったこれはお代だ」











「……………っ」

気を張ってたのか、ぷつりと意図がきれたようにばたりと倒れた。



「……大丈夫か?」
「な、んと、か」

「未来がわからん割にははっきり答えてたな」




「……その人のことが分かれば、なんとなく予想くらいは出来るでしょう」
「予想ねぇ」




予想や占い、なんて曖昧な言葉で片付けられるような物ではない――銀時もそれは分かっていた。




「―――おめー、何モンだ」




真っ直ぐな目に射られて聖はびくりと身体を竦める。そして蘇る、言葉




「ば、けもの」
「は?」
「………いえ、なんでも」




歯切れわるくぼんやりと笑う聖はどこか切なく、銀時はそれ以上なにも言えず黙った。
そして考えるようなそぶりを見せる。



「あれか……阿国の逆バージョン?」
「は?」
「……いや、お前才能あるんじゃね、案外。ヅラも喜んでたし」



銀時は適当なことを言ったまでだが、意外に聖は驚いたようだった。



「才能、なんて。そんな、」
「あれだけ喜ばせられたらな、口から出任せでも価値があるってもんだ。占いは当たるかどうかじゃねー、相手に元気を与えるもんだろ」
「――――」




聖は唇を噛んだ。




「………き」
「あ?」
「気持ち、悪く……ないですか」
「………」
「プライバシーに土足で上がり込むみたい……最低、ですよ」
「…………お前な、」





ため息を吐いた。




「好きでそうなってる訳じゃねーんだろ。おめーさっきから人から目逸らしてるよな、まるでなるべく関わらない様にしてるみてェだ」

「………」

「闘ってるんだろ」





だったらいいじゃねェか――


そう言おうとしたら、今にも泣きそうな顔をしたのでぎょっとして口を閉ざした。




「ま、まぁあれだ。俺がやるよかお前がやったほうがいいだろ。ほらよ」




ばさりと布を被せ端と端を顎のあたりで結んでやる。





「にしても長谷川さんおせーな」

「………あぁ、分かった気がします」

「あ?」








「素晴らしい、人だったんでしょうね」









「…………」


「女の子泣かせる所だったんです、このくらい良いでしょう」




潤んだ瞳で聖は笑んだ。




「……ちっ、胸糞悪ィ」






「ねぇよく当たる占いってここぉ?」

「え」





振り向けばぞろぞろと長い列が出来ていた。






「ぼーっとしてないで占ってよ、占い師でしょ」
「は、はい」

「うわ、片割れの性悪女」

「誰が性悪女だァァ!」







「いやァ恋愛について占ってほしいんだどうやったら想い人を射止められるか!」
「こ、近ど」「多分一生無理でしょうねハイさよなら」
「ええええちょっとそれはないでしょ占い師さん!もっとマトモなアドバイスとかないの!」


「(知り合いってことは隠しといた方がいいぞ、知り合いのしかも女に恋愛沙汰の恥を晒したなんて知らん方がいいからな)」
「わ、わかりました……」
「だいたい占うまてもねーだろゴリラの恋なんて。野獣と野獣だぜ?ひっくり返ってもいい関係になんざならねぇよ喜劇だぞもはや。いやある意味悲劇だけどよ」
「でもこの人その……見た目と反して女々しい所もあるというか、逆にその相手の方は見目麗しいのに……男らしい、というか」
「何!それは足りない所を補い合う素晴らしい夫婦になれるということじゃあないのか!!」

「……え、まぁ」

「ありがとう占い師さん俺生きる勇気が沸いてきたよ!」


……………


「行っちゃい、ましたね……」

「もう一つこのままじゃ死にますよ、って言ってやるべきだったな」








「上の天然パーマがどうやったら家賃はらってくれるかね、教えてほしいんだ」

「……げっ、ババア」

「あ?なんか言ったかい」

「いえ何も」
「(またお知り合い……顔広いんだ)では、お手を」

――――


「……えっと(銀さんの大家さんだったんだ。でもからくり家政婦?に攘夷志士に指名手配犯……ってどういうこと)」

「どうかしたのかい、顔色悪いよ」

「あ、いえ。家賃、でしたよね。……やはり、相手が相手ですので武力行使が一番、かと」

「(おいてめーなんつーこと勧めてんだ!)」
「(銀さんならちょっとやそっとじゃ死なないから大丈夫……と多くの人を探っていてわかりました)」
「(いや銀さん何回も死にかけてるからね!人間だからね一応!!)」


「やはりそうかい、迷ってたんだけど心が決まったよ。これはお代だ」
「ありがとうございました」
「………」
「銀さんもよければみてあげましょうか」
「いや……いい」






それからもそれはもうたくさん人が来た。

わかったのは江戸には様々な人がいる。攘夷志士、やくざ、キャバ嬢、ホスト……そして様々な過去を抱えている。それにくらべれば私の抱えているものなど、本当に小さいものだと思う。

でも、一番変わってるのは隣の人かもしれない。

なんせほとんどがこの人の知り合いだったのだ。




ちらりと銀さんを見た。彼は私がしんどそうにしているのを見てすぐ店じまいにしようと言ってくれた。優しい人だ。……でも、知れば知るほど謎だ。

愛されてるのか、憎まれてるのか。

そしてもっと知りたくなってしまう。一体何がこの人をこうさせたのだろう。どんな風に育ったのか。

――でも、それは、さっき覗いたあの優しい顔と血なまぐさい記憶で、分かった気がした。


「ホンットありがとな!まさかこんなに儲かるとは思わなかったよ」
「いえ」


長谷川さんがほくほく顔で売上金を抱えている。
銀さんはずいと手を差し出す。


「なんだその手は」
「俺も手伝ったんだ、分け前」
「あぁもうこんだけあったら新しい住まいに引っ越すのも夢じゃねーかもな!」
「きいてんのかオイ」





「あ、そうだ嬢ちゃん。通りすがりで本当悪かったな、これはお礼だ」
「……え」




どっさりとお金をもらった。




「俺も通りすがりなんですけど」
「あんた俺の商売道具壊しただけだろうが」

「あの、じゃあ銀さんこれあげます」

「え」




それをそのまま彼に押しつけるとさすがに気が引けたのかそのまま押し返された。

「いやいやなんか巻き上げてるみたいで悪いって」
「じゃあ私はこれだけでいいです」


ぴらりと五千円札を取り出した。



「大きな通りに出る道を教えてください」
「え、ああそれなら左にずっといけば」
「ありがとう」


二人が何か言う前にじゃあ、と手をあげてその場を走り去る。




「……いい子だなぁ」
「あぁ」







本当にもういいんです。


もっと――かけがえのない物をもらったから。










邂逅









*ちなみにこの後長谷川さんはスリに合います。この人はとことんお金を手に入れられない人だと思う。



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