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聖は結局あの後眠れず、暫く頭痛に苦しんでいたが朝になる頃にはそれも静まっていた。

その表情はやつれていて、疲れている事が見て取れたがそのまま眠る訳にもいかず、ただぼうっと俯いて畳を見つめていた。

するとがらりと襖が開く音がして僅かに顔を上げる。





「…聖ちゃん、大丈夫?」





入ってきたのは監察の山崎退。顔や体つきなどをみてもこれといった特徴のない、しかし温厚そうな青年。聖を見た途端心配そうに此方を覗き込んで来た。





「…大丈夫です」

「本当に?」





こくんと頷く。山崎はまだ心配そうに聖を伺っていたが一つ息を吐くと「じゃあ朝食用意してあるから、着替えたら食堂に来てね」と言い残して去って行った。













もう昼だったらしく、空を見れば太陽は高い位置にまで登っていた。言われた通り食堂まで来るとそこには大勢の隊士たちがいて聖は思わず身を竦めてしまった。

「聖ちゃん、こっちこっち」と山崎が手招きをする。知った顔を見て少しほっとした彼女は彼のそばにかけていった。



「なに頼む?」とメニューを出され、黙ったままそば定食と書かれた文字を指さす。




その間もちらちらと隊士達の視線を感じて聖は居たたまれない様子で俯いていた。




大丈夫だよ、と山崎は微笑む。

「ごめんね。此処男所帯だから女の子の君が珍しいんだよ」

「……はぁ」




聖はぼんやり首を傾げてから、おんなのこ、とオウムがえしに呟いた。

よく眠れずにぼんやりしてるのだろう。心配になり君のお父さんが帰ってくるまでの辛抱だから、と言うと、聖はなにを思ったのかそうですか、とまた俯いて目を伏せた。



「おい山崎、こっち来てみろよ」
「え?」



突如隊士に腕を捕まれ引っ張られた。なんだと思っていると「今から賭けすんだよ」と言う。




「いやでも」
「あ、聖ちゃんもどう?面白いぞ」
「いったいなにするの?」
「花札だって」




花札。そんな洒落たもん出来る奴がいたのかと山崎は思うが、「はなふだ…」と聖はまた隊士の言葉を繰り返した。


「興味あるかい?あっちのテーブルでやってるからきてみな」



見れば奥の方に人だかりがある。隊士の去った後をふらふらとついて行く聖に待ってと山崎もついて行った。




「青タン、こいこい!」
「そう来なくっちゃなァ」



やってるのは沖田と原田だった。

沖田の場に並んでるのはいのしかちょう、いのしかちょうなどいい役なのに対し原田の方は青タン、赤タンと地味である。

これでは殆ど勝負は決まったものだ。



「みんな誰にかけてるの?」
「沖田隊長だ」
「だよなぁ」



そもそも沖田隊長が負ける姿など想像出来ない。ちらりと聖を見ると彼女は割と興味を持ったのかじっと神妙な顔で二人を見ていた。



「倍率低いけど沖田隊長にするかな。千円」
「さすが山崎だ、地味だなァ」
「五月蠅いですよ隊長」




にやりとする沖田に言い返して聖ちゃんはどっちが勝つと思う?と彼女を見る。




「……えっ、わ、たしですか?」




すると何故か彼女は狼狽えたようになって俯いた。やっぱり沖田さんかな、ととうと以外にも彼女はふるふると首を振った。




「私は――原田さんにかけます」
「えっ」




聖は遠慮がちに懐から五千円を出した。

ひゅー、と沖田が口笛を吹く。



「無謀にも程があるぜィ、悪いこと言わねーから止めときな」
「……大丈夫です、私のお金じゃないので」




土方さんがくれたんです、と彼女はいった。「じゃあいいか」と沖田はあっさり折れいかにも隊長らしいと山崎は苦笑する。




「ほい、お前の番だぜィ原田」




カス札を捨て沖田が原田を促す。原田が札を引くとよっしゃ!と彼は四枚の札を場に並べた。





「四光!俺の勝ちだ!!」
「……はぁ?」





沖田隊長は目を見開いてちっと舌打ちした。




「勿論こいこいだよなぁ原田」
「んな訳ないでしょ、勝ち逃げさせていただきます」

「あ、待て!」




さっさと退散する原田を呼び止める。同時にどっと場が沸いた。




「おいおい、負けちまったぜ」と誰もがぼやく中山崎は気づいた。

「…………あ、」




聖を見ると「運がいいなぁ嬢ちゃん」と元締めから札束を受け取っていた。




「お、すげぇな聖ちゃん!」
「今度俺と一緒に賭場行くか!?」
「……あ、あの」



みんなから素直に尊敬の眼差しを向けられて、彼女はなれないようにおろおろとした。




「こらこら聖ちゃん困ってるでしょ」



良かったね、と声をかけるとは手に余る札束を見てからずい、と山崎につきだした




「え、いやいやいいって」
「私がもらっても使い道ないですし……その、土方さんにも返しておいてください。」
「でも」
「心ばかりのお礼ですから。それに――」

「え」




言いよどんだ彼女に聞き返すといやなんでも、と言って彼女は申し訳なさそうな顔をしてその場を去って行った。

山崎はぽかんとしながら、このまま大金を手にしたら皆からにらまれそうなので順繰りに返していった。

「あいつ」と沖田がなにやら彼女の帰った方向を見て呟いていたが山崎には聞き取れず、ただ最後悲しそうな顔をした聖が心配でその方向を振り返った。






予感




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