3
「う…」
特に早く寝たわけでもないのに目が覚めてみると外はまだ暗いままだった。
昼寝過ぎた所為だろうかと思いながら乾いた目を擦る。寝直したい所だが妙に目が冴えているので何だか寝れそうにない。
羊でも数えようかとも思ったがいつだかもやってみて結局寝れなかったな、などと少し前の事を思い出した。
ついでに胸が締め付けられる様に痛んで、慌てて首を振りそれを追いやった。ダメだ、こういう夜はどうも色々考え過ぎていけねェ。
――な、さ……――
「…?」
微かに誰かの声がした。部屋を見回すがもちろん俺の他には誰もいない。
――と…さ…――
耳を澄ましてみるとどうやらそれは隣の部屋からの様だ。俺はそろりと立ち上がり襖を開け入ってみた。
「ごめ、なさ…」
「……」
其処にいたのは今朝会議に現れた少女だった。目は閉じられていたが、うなされているのか、布団にくるまって苦しそうに唸っていた。
「…っ…うっ…」
「…オイ」
顔を覗いてみれば少女は苦しそうな表情でぽろぽろと涙を零していて、思わず起こしてやろうと少女の肩に手をやる。が、突如伸ばした腕に物凄い力が加わった。
「――ッ」
それは男の俺でも驚くほどの力で、思わず払いのけようとするが、少女はそれすら許さず、ただ苦悶の表情を浮かべて嗚咽を漏らしながらまるで命綱の様にぎゅっと俺の腕を掴んでいた。
「…ひっ…く…」
「…オイ、大丈夫か?オイ!」
もう片方の手で揺さぶってみるもなかなか少女は目を覚まさない。どうすれば、と困惑していると少女はまた一層苦悶の表情を深めながら何かを呟いた。
「ね…ちゃ…」
「オイ、いい加減起き…」
「ごめ…なさい…僕は……俺ァ…」
震えた唇から発せられた声は今までとは種類の違うものだった。その俺は目を見張った。それは――紛れもなくあの時あの人の前で――俺が呟いた言葉だったからだ。
どくんどくんと心臓が早鐘のように打つ。何故。何故俺しか知らない筈のそれを知っているんだ。
「……あ…」
「…!!」
少女の起きた気配にはっと我に返る。
うっすらと目を開け、ぼんやりとする少女に平静を保って声をかけた。
「…大丈夫か?」
「…え…」
少女はまだ様子が分かっていない様で呆けた顔でこちらを見返したが、視線を落とし自分が相手の腕を掴んでいるのを理解した途端、目をむいて慌ててそこから手を離した。
「…ごっ、ごめんなさい!わ、私っ…!!」
「…気にする事ァねー。悪い夢でも見てたんだろィ」
とりあえず先程の事は頭の隅に追いやり、そう言うと少女はまた何か言いたげに口を開いたが、すぐに閉じて今にも泣きそうな顔で俯いた。
「それでも…ごめんなさい…」
「…ずいぶんとうなされてたな」
「…時々、あるんです…」
「…そうかィ。もう大丈夫か?」
「…はい」
そうは言うものの少女は目眩を感じたのか苦しそうに頭を抱えた。支えようとすると彼女は頭を振ってぽつりと呟いた。
「…すみません、少し…一人にして下さい」
「……」
眉間に皺を寄せ、泣き顔になった少女を見て何故かあの時の自分の影が重なった。
過去