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「近藤さん、どういう事だ」





集会が終わり皆が解散した後、土方はすぐさま近藤に詰め寄った。その低い声に傍にいた少女がまたびくりと体を竦ませる。





「まぁ落ち着けトシ。聖ちゃんが怖がってるだろう」





そう言って土方を諫めてからから近藤は説明を始める。





「昨日の昼くらいだったかな。いきなりこの子の父親が来て娘を暫く預けたいって頼みに来てな。何でも出張で、母親も兄弟もいないもんだから此処に預けに来た、という事なんだそうだ。」





昨日土方は何かと忙しかった。昼はちょうど見回りに出かけていた時間で、少女が来たという夜の時間も寝ていたから時前に説明する事も出来なかった、という事らしい。





「……」





土方は黙り込んだ。度々この様なパシリじみた仕事があったが、そのどれもが碌な結果にならなかった。

しかしお偉い方の頼みとあっては断る訳にもいかない。






「…いつまで預かるんだ?」


「二週間位だ。最も向こうで都合が変わったら伸びる事も十分に考えられるんだと」





二週間。思ったより短い。それだけなら問題はないだろうか。

ちらりと少女に視線を落とすと少女は慌てて顔を逸らし俯いた。

土方は軽く息を吐くと、少女から目を逸らし近藤さんに視線を移す。





「事情は分かった…。で部屋や服はどうすんだ」


「服は親父さんから預かってある。部屋はもう決めてあるから案内してやってくれ、トシ」




何故俺が、という問いは飲み込んだ。多分例の如くストーカーに勤しむつもりなのだろう。止めても無駄なのは分かっている。

肩を叩いて去っていく近藤を見て少女は一層肩を強ばらせていたが、土方はそれを気にもせずついてこい、とだけ言うと先へ歩いて行った。

少女は慌てて土方を追いかける。





「……」

「……」





長い廊下を二人は並んで歩くが一言も言葉を交わされない。ただ少女はうつむきながら微妙に土方と距離をとり、小さな歩幅でちょこちょこと歩いていた。

付いてこれる様に歩調を緩めるながら流石に長い沈黙に耐えかねて、土方は問いを少女に投げかける。





「相良…って言ったか」


「………は、はい」





てっきりまた怯えて肩を震わせるのかと思った。しかし顔を見ると少女は相変わらず気弱そうな顔つきでいたが、先程と違い怯えの表情は僅かだが薄らいでいる。

内心で少し驚きながらも、土方は会話を続ける。





「身よりがないのか」


「…え?」


「一人娘を見ず知らずの輩に預けるんだ、よっぽど頼りがないんだろ」





実を言うと疑っていた。

考えれば他にも然るべきところに金を払って預けるなり近所の家にやるなり出来た筈だ。少なくともこんな男所帯に預けるより遥かにマシだろう。

なにを企んでいるとは言わないが、理由位は知っておきたい。

それでカマをかけたのだが少女はまた少し俯いて、こう答えた。





「…邪魔な、子なんです」


「あ?」


「…生まれてきちゃ、いけない子だったんです…私は…」





そう言って少女は俯けた顔から微かに笑みを覗かせたが、土方にはそれが何故か泣き顔の様に見えた。






一瞬の微笑み




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