「あぁー疲れた」

肩をゴキゴキ鳴らし独りごちる。ついでに手にぶら下がってる袋をぶんぶん振り回した。





あの後、店長は早々に店じまいにすると、そのまま店で飲もうと提案した。みんな大喜びしワインやビールを飲み放題。

私は店長自慢のオーガニックウーロンティーをちびちび飲んでいると、これの方が美味いからとオーガニックビールを押し付けられた。

ああ、ちなみにうちはオーガニックカフェである。店長はオーガニックに並々ならぬこだわりがあるらしい。

イヤイヤ飲んだら本当に美味くて渋面になると、どや顔をされ私が身体に悪い物ばっか食ってるのを見越したのか、いろんな食い物を持たされた。そのどれもがこの上なく美味い事を知っているから文句も言えずため息をつく。

と、何故か頭を撫でられながら店長は咲生さんと下ネタに華を咲かせるのだった。日本人離れしてる店長は下ネタも外国仕立てだ。

真剣に聞いて時折爆笑する咲生さん、ガンガンワインをのみながら興味深げにそれを聞く微瀬と、それに笑い苦手なのを知りながらそれを私にふってくる槇村。

呆れながらも外国の様々な所へ行った店長の話はいつでも面白く、幅広いため引き込まれたのは事実だった。「ちくしょう」回想してたら毒づきたくなった。酒を飲まされた挙句集団に引き込まれるなんて、迂闊だ本当に。元来ああ言う事は苦手だと何度言えばいいのだろう。

私に紹介する男のことは槇村が聞くと、忘れてたと宣い、今度連れてくると私に約束した。その今度がいつかは知らない。

「何急に罵ってるの?」
「槇村の嫌がらせがすごいいやだったなーって思い返してたから」
「そーなんだ」

ふわり、と笑う槇村。年下の癖に敬語を使わない所、それが許される性格なのも、見た目がいいのも、いろんな所を含め生意気な奴だ。

「ていうか送ってくれなくてもいいって言ったのに」
「店長の命令じゃ逆らいたくても逆らえないですから」
「……」

わざとだろう。あはは、と笑ってポンポンと私の頭を叩く。ますます小馬鹿にされた気分だ。

嫌になりながら早足で歩き出して、思い切り息を吸い込むため空を見上げる。

「……あ」

吸い込んだ息は感嘆の声となって吐き出された。満天の星だ。

「どうしたの」と槇村。

「きれい」

ふっ、と心が温まる感覚。目を細めてみれば、晴れた夜空は散りばめられた光をより一層美しく見せてくれた。

「ねぇ、槇村」

振り返ればこちらをみて惚けた様な顔になってる槇村。それも一瞬で目を見開くと「……なんですか」と珍しく普通に敬語で返してくる。

「いや、星がきれいだって」
「うん、俺は星より団子だし」
「……最近の若者は」
「年寄り臭いこと言ってると老けるよ?」

にこっと小首を傾げる彼にため息を返すとひょいと袋を取られた。

「あ」
「送った駄賃としてこれもーらお」
「ちょっと、それ私の好きなヤツ」

ZION Blend Coffeeと書かれた袋を持ち上げるとまたまたーと笑顔の槇村。何がまたまたなんだ返せ。

「俺今日ちょっと疲れてたんだからこれくらいいじゃない」
「珍しい、疲れてたなんて」
「やな話を聞かされたからね」

なんだ、と見ればじぃ、と見てくる。端正な顔が今は真面目な表情だ。そのまま見返せば、数秒後にため息。

「……ま、いいや」
「何が?」
「いや、今日告白されたから、どう返事したものかと悩んだけど、普通に直接正直に言おうって」
「ふーん、イケメンらしい悩みだな」
「……」

何やら彼は考えこんでいる。ジャニーズ顔負けのハンサムは悩みも非日常的だ。

彼は疲れた、とこめかみを揉むとずいと袋を返してくる。

「ついた」
「お、ありがとう」

前をみたら私のマンションがそこにある。鍵を取り出してから槇村を見た。

「お茶飲んでく?」
「…………いや、やめとくよ。ちょっと悩みたいし」

彼は眉をひそめる。不思議に思いながらそう、と頷くと「ちくしょう」と私の真似をされた。独り言は漏れるもんなのだろうか、彼がたまに天然を装ってるのか本当にそうなのかがわからない。


「じゃあ」

すると私の頭に手を置きぐわしと髪を掴む。髪がぐちゃぐちゃになったことに反抗の声を上げると零れるような笑みを残し、また明日、と走って去って行った。ちょっとどきりとしたのは内緒。

「ああっ、もうドSめ」

イケメンでもあれじゃ台無しだと頭を直しながら心中で呟く。

髪を戻してついでに深呼吸して思考をクリアにする。



……もう疲れたし、さっさと帰ってコーヒーでも飲もう。

と立ち上がり玄関に向かう。


「ーーーー」


ばっ、とこの間の光景がフラッシュバックして、足の動きが止まった。

「……あー」

せっかく忘れてたのに。

どうしよう。カンが言うには大丈夫っぽいけど、なんかーー帰りたくない。

一瞬バイトの面々と店長の顔が頭を過ぎった。

振り払った。

ーー大丈夫、大丈夫。

深く、息を吸い込み呼吸を整える。何度かまた自分に言い聞かせて、止まりたがる足を無理矢理前に出し……歩き出した。


ーーお前変わらないな。

そう言う店長の声が聞こえたような気がした。




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