曇天の下、いわゆる校舎裏と呼ばれる場所で一人私は佇んでいた。退屈凌ぎになるかと来てみればそこは不良のたまり場で、ただ一人の女は当然の如くちょっかいをかけられた訳だ。
それでもなお無視を決め込んでいた私にキレたのか、男の一人が拳を振りかざした。暫くして私は無視を止めて視線をずらす。
「強いね、君」
校舎の壁にもたれかかりながら思ったままを口にすれば相手はゆっくりと顔を上げた。ちょっかいをかけてきた男達は地面にだらしなく伸びている。
突然現れた別の男が、一瞬で数人いたこいつらを倒したのだ。
礼を言わない私に驚いた表情も見せず、にっこりと笑いながら相手は聞いた。
「Aクラス学年トップの月本神無?」
「そういう君はZ組不良トップの神威くん?」
簡単な私のプロフィールを述べた神威くんに私も彼のプロフィールを述べ返す。なんだか正反対だな、と頭の隅で思う。
何が可笑しかったのか神威くんはくすりと笑った。
「学校一の優等生がこんな所で煙草ふかしてるなんてね」
男達のことなどなかったかの様に神威くんはそんな事を指摘してきた。ふっと笑みが浮かぶ。それと同時にポロリとくわえた煙草から灰が落ちて、地面の草を焼いた。それを眺めながらぽつりと呟く。
「優等生は退屈だからね」
ふぅん、と興味を示したように相槌を打つ声。
「君は吸わないの?」
「なんで?」
「だって不良なんでしょう」
聞きながら紫煙を吐くとふわりと風が吹いて煙をさらっていった。この場に匂いを残さまいとしているみたいだ、とふいに馬鹿な感想が浮かんでまた笑んだ。まるでこの学校の風習そのものだ。問題児を一カ所にあつめてまるで無い物の様に扱っているあたりとか。
その問題児、Z組の神威くんは私の問いに声を上げて笑った。
「俺は強い奴以外興味ないよ」
「……へぇ」
その一言で私は十を理解する。(自慢じゃないが伊達に学年トップをやっていない)
そんな種類の不良がいたんだなぁとまた脳に新たな知識を積み重ねる。女も酒も煙草もやらず喧嘩だけをする、ある意味純粋な不良という訳か。
じゃあ私は…不純な不良か。不真面目な優等生か。
くだらないことを考えている私に神威くんが首を傾げる。表情は笑顔のままなので些か奇妙な光景だ。
「やけに落ち着いてるね、煙草見つかったのに」
「んー?まぁ、そうだね」
「俺が先生にちくるかもしれないよ?」
曖昧な返事をする私に神威くんは更に言及してくる。
「お好きにどうぞ?」
私は肩を竦めた。
彼は不良だが先生達からも恐れられているので、一言言えば優等生の私でもあっさり処分を受けるだろう。ある意味理不尽ではあるけれど。
「いいの?」
「好きでトップになった訳じゃないし。あー。でもそうなったらZ組に編入だね。宜しく」
「あはは」
畏まった挨拶をしたら笑われた。「変わってるね君」「その台詞そのまま返すよ」ニコニコと笑みを向けられる。地顔なのかな、あれ。
「それも面白いけど、」
前置きをしてから神威くんは言った。
「俺と君だけの秘密ってのも悪くない」
その代わりまたここに来てよ。
口端を吊り上げてさらりと提案してきた。
私はきょとんとして神威くんを見返したが、どうも冗談ではないようだ。思わず小さく吹き出した。くくく、と小さな含み笑いが口から漏れる。
「学校一の優等生と学校一の不良の密会ですか」
「嫌?」
変なことを聞くなぁ。にやつきを押さえながら私は答える。
「暫くは暇しなさそうね」
それを了承の合図と取ったのか、神威くんは張り付いた笑みをニヤリとしたしたり顔に変えて、満足そうに頷く。
微笑しながら霧散する煙を追いかけて空を見上げたら、さっきより青く晴れている様な気がした。
秘密の校舎裏
*素敵3Z企画ROUTE様に提出させて頂きました!駄文で申し訳ないです…