「おお、おまんか。まっこと久しいのォ」

「いきなり何の冗談ですか、毎日顔つき合わせてるでしょうが。あーあ、また飲んでるんだ」





船の中、一通り仕事を終えた所で報告に上がろうと部屋を訪れると一升瓶片手に飲んだくれている我が上司がいた。


酔っているとよく人を間違える癖があるのか、たまにこういう事がある。

この前なんかクッションを私と間違えていた。間違えるのは名前だけにしてほしいものだ。





「なんじゃおりょうちゃんか、そうか結婚してくれるかァ」


「夢見んのは寝てる時だけにして下さい」





抱きつこうとする腕をひらりとかわすと相手はどてっと見事に地面に突っ伏した。酒なんて飲んでるからそうなる。

土佐の方は酒飲みが多いと聞いたが、この人は全く酒に強くない。

友達らしい銀髪頭の人もそうだったな、と思い出してやっぱり類は友を呼ぶのかと一人納得する。




「……おー?神無か。仕事は終わったんか」




床からむくりと身体を起こし私の顔を覗く坂本さん。




「ええ。その為に来たんです。これ、報告書置いときますね」





ぶっきらぼうに答えつつ、書類を投げる。


ばさっと音を立てて紙の束が机に落ちた。





「ご苦労じゃったのォ。ほれ」





振り向くと坂本さんが差し出した手には徳利が握られていた。中にはなみなみと注がれた日本酒。





「一杯やらんか。たまには息抜きも必要じゃきに」





にかっと笑う相手にふいに気持ちが緩んで手が伸びそうになるが何とかぐっとこらえる。





「……悪いですけど、明日も仕事ですから」


「今日くらいは楽しまな損ぜよ。せっかくのクリスマスじゃとゆうに」





……あれ、そうか。今日クリスマスだっけ。

仕事が忙しかったものだから忘れていた。いつもの事だけど。





「……でも」


「陸奥もおまんは働き過ぎじゃとゆうとったき。一日飲んだぐらいでは怒らんじゃろ」



「……はぁ」





しつこく酒を勧める坂本さんに根負けして徳利を取る。




坂本さんと同じ様に地べたにあぐらをかき、クイッと酒を煽ると久しぶりのアルコールの刺激に舌が痺れた。




しかし味は旨かった。見ると酒瓶のラベルには"鬼嫁"とある。某高級酒の名前だ、道理で。






「ほんまは地球寄って金時にこれを持って行こうかと思っちょったが、たまには部下と静かに飲むのもええと思うたんじゃ」


「……そうですか」





名前間違えてますよーとは何度訂正しても直さないので突っ込まないでおく。

銀時さんも苦労するなぁ。





「私の事なんて気にせずに行ってこれば良かったのに」


「アッハッハッ、そんな冷たい事言わんともっと喜んだらどうじゃ」





大きな手がわしゃわしゃと乱暴に髪の毛を撫でる。少し煩わしく思いつつも何故か安心するのは何故だろう。


思わずふっと笑みを零すとお、と坂本さんが驚いた様に口を開けた。





「やっと笑うたの」


「……え?」





ぱちくりと瞬きをすると坂本さんはにっと笑顔を返す。





「今来た時も眉間にしわ寄せてずっと険しい顔しっとったからのォ」




そうだったのか。思い返してみてはたと気づく。そう言えば師走の所為でずっと碌に休みとってなかったし、睡眠もしかりだ。疲れが顔に出てたかもしれない。


まだまだだな私もと一人落ち込んでいるとそれを察したのか坂本さんは頭をぽんぽんと叩いてくれた。





「うちの隊も最近ずっと忙しかったきに、無理させて悪いと思うとる」


「……そんな」





私はかぶりを振る。

私は自分がしたくてやってるのだ、坂本さんに責任は一切ない。




私は攘夷戦争で家族や友を亡くした。それがきっかけでこの時代を変えたいと――そう思った。

だけど自分の大切なものを奪った力でそれを行う気にはどうしてもなれなかった。天人の側にも地球人の側にもつけず苦しかった。

そこを拾ってくれたのが坂本さんだった。





思想や武力ではなく平和的に天人と地球人の摩擦を解決出来る。そんな方法が本当にあるのだと知った時は気持ちが浮き立った。




その為なら私はどんな事でも出来る。これ位どうって事はない。



そんな私の思考を読み取ったかの様に坂本さんは言う。






「頑張って働いてくれんのは嬉しいがの、なるべく無理はせんで欲しいんじゃ。わしはおまんを苦しませる為に此処に連れて来たわけじゃあないきに」


「……」




思ったより心配してくれてるんだと気づいて少し驚いた。

同時に申し訳なくなって俯き『すみません』と謝罪の言葉を小さく呟く。





「謝る必要はないぜよ。まーケーキもツリーも用意できんかったがこれで許してくれんか」





そう言ってまた私の徳利に酒を注ぐ。





「……たまにはこういうのもいいかもしれませんね」


「ん?」


「いえ、その……ありがうございます」





するとまた彼はこっちまで明るくなる様な笑顔でにかっと笑ったのだった。




疲れた日には日本酒を





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