秋になりすっかり冷たくなった空気をただ吸い込んでは吐き出す。




敵はとっくに撤退しているが何だか帰る気にはならず、死体が転がっているのもお構い無しに突っ立っていた。





「そろそろ帰るぞ」


「……先帰ってて」


「そういう訳にもいかんだろう」





横目で一瞥すると、桂はじっと此方を見つめる。嘆息し勝手にすれば、と言うとそうさせてもらう、と真面目な返答が返ってきた。


少し呆れながら取り敢えず思いついた事を口にする。





「……向こうは大丈夫かな」


「アイツらの事だ、今頃帰って酒でも呷っているだろう」


「……だよね」





空を仰いだままそう呟く。

空にはこの場所とは裏腹に幾千もの星が煌びやかに瞬いている。吸い込まれそうだ、とバカみたいな感想がぽつりと頭に浮かんだ。





「空に何かあるのか」


「……いや」





軽く首を振ってからまた続ける。空になにもないことなどいくら私でも分かっている。





「……死んだ人は星になるって言うでしょ?」


「……」


「……だったらあの中に」





皆まで言いかけて言葉を飲み込む。


――ただの、幻想だ。それに今その名を口にするにはあまりにもおこがましい気がした。





「それに、仲間もいると思うとね」


「……そうか」





桂は神妙に頷くと私と同じように空を仰いだ。





仲間だけじゃない。私が斬ってきた命も。でも――





「護らなきゃ――いけないでしょ」





意識せずそんな言い訳が口をついて出て、それに桂がぴくりと隣で反応したのが分かった。





目の前で大切なものを失うのは、自分の非力さと世の中を憎みながら生きるのは、もうたくさん――






其処まで考えるとふわりと何かが身体を包む。


何だろうと見てみると青色の羽織が肩にかけられていた。





「その格好では寒かろう」





軽く驚いて桂を見る。


確かに鎧をつけていないから寒いのは寒いけど――





「……珍しい事もあるもんね」


「何を言う。俺はいつも紳士的だ」





いや、少なくともこんな素直に優しくしてくれる様な奴ではなかった、はず。

じっと見つめていると桂は少し困った様な顔つきになり、一つ吐息すると言った。





「女が目の前で落ち込んでいて優しくならん男はおらんだろう」


「……落ち込んでなんか」





少し意地を張ってそう言ってみるが、羽織の暖かさに心が軽くなったのを感じて口ごもる。





「……ありがと」





ぼそっと小さな声で呟くと桂は驚いた顔になって「雨でも降るんじゃないのか」などと零したのでむっとなって言い返す。





「うるさいなヅラ」


「ヅラじゃない桂だ」





わざと彼の嫌うニックネームで呼ぶと、例の如く不機嫌な声で訂正してくる。




全くもって予想通りの反応に思わず笑みを浮かべる。





「お前までそのニックネームで呼ぶつもりか」


「それもいいかもね」


「許さん。断固阻止する」





どうやって阻止するんだ、と心の中で突っ込んでから可笑しくなってくすり笑いをもらす。




コイツはきっと何年、いや何十年たってもこのままなんだろう。




しかしそう考えると可笑しく思うよりもほっとした気持ちにもなる。

変わらないものがあるというのは、こうも人間を安心させるものなのだろうか。





「――行こうか」


「……ああ」





歩き出すと桂も隣に並び歩幅を合わせて歩いてくれる。






――皆今日も多分、朝まで騒ぐんだろう。





覚悟しとかなきゃな。





そんな事を思いながら反対に気持ちは軽い。


微笑みながら一人星空を見上げる。視界いっぱいに煌めく星を見ても、今度は不思議と気分は落ち込まなかった。








戦場の星空

























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