「どうしたんでィ、電話なんて珍しいな」
「別に、ただの気まぐれ」
「あ、そう。用がないなら切るぜ」
「待て待て。あるっちゅーの普通に」
「なんでィ」
「聞いて驚け。天界党潰したよ、私」
「…………」
「……ふ、驚いた?」
「嘘ついてんじゃねーだろうな」
「つくもんか。つかアンタだっていっこ攘夷党潰してんでしょうが」
「お前本当に神無か」
「とことん疑うか。なら来てみなさいよ、かぶき町の廃ビルんとこ」
「ふーん……分かった、すぐ向かわせる」
「やけに素直ねー」
「お前もな。気ぃ抜くんじゃねーぞ」
「余計なお世話だバカヤロー。じゃあ」
電話を切った。
最後まで憎まれ口か。なんとも奴らしい。だが、
「忠告、遅ェんだよクソドS……」
敵の声が聞こえた。私を探している。歩こうとする。その度にどくどくと血が流れる。これじゃあ血が抜けるのと逃げおおせるのとどちらが早いか。
『討ち取ったりィ』
『いでっ、ちょっとそーご頭やることはないでしょ』
『俺達ゃ実戦剣術をやってんだ、全然せこくねーよ』
『そうそう。お前が弱いのが悪いんだ』
『あんたねぇっ!』
『こらこら止めろお前ら、笑われてるぞ』
『ふふふ』
今まで散々見てきて分かったこと。死んだら、すべて終わりだ。私らはそんないつ死ぬかともしれない、場所にいつも身を置いている。だから覚悟はしてきた。後悔なんてしてない。越えてきた屍なんて気にしてる間もなく前だけ見てきたんだ、いつも。
どんどん身体が冷えていくのが分かる。意識が、次第にかすんできた。あー、これは真面目に、やばい。
「はっ」
壁の冷たい温度とだんだん感覚のなくなっていく手足を感じながら、思った。そうだ。私も、もう終わりだ。
良かったよ。あんな何人も囲まれて、私も有名人か。あれだけ捕まえたんなら大手柄だ、副長喜ぶだろうな。近藤さんも喜んで祝杯をあげるだろう。
おわ、り。
『ミツバ姉っ笑わないでよー』
『ごめんなさい、あまりにも仲が良いものだから』
『やめてくれ、こいつと一緒にされるのは恥ずかしい』
『それ私のこと!?』
『いい気味だ』
『お前もだ総悟』
『なんだと土方コノヤロー!!』
「は、は……」
何かがこみ上げて、身体が震える。
やば、い。
死にたくない。
嫌だよ、ミツバ姉みたいになるのは。私は、あんな風に潔く逝けない。だって、アンタらといるの、楽しかったんだよ。何にも無かった私が、人生で初めて。
憎まれ口叩いても。喧嘩してても。
痛い。こんなの、なれてる筈なのに。
みんな――
「いたぞ!!」
見つかった。霞んだ視界に大勢の敵が見える。
「死ねェェ!!」
眼前に敵が迫る。刀が振りかざされた。唇をかんで、覚悟を決める。
「――さようなら」
「ぐあァァァっ」
倒れたのは敵の方だった。
今まで侍として機能してきた身体が敵を斬れと、命じた。
「ひ、怯むな!かかれェェ!」
「……ははっ」
笑える。いつから私はこんなバカになったかね。侍らしく自刃でもすりゃ楽になれるだろうに。あいつらのが移ったか。
――ああ、ある意味私は根っからの侍かもしれない。
刀を構える。
「うあァァァッ!!」
斬っていく。もうどっちの血だか分かりゃしないくらい私は真っ赤だった。そんな私に敵さんもおののいたように後ずさった。くすりと笑いが漏れる。ざまーみろ、こういうのはお前だけの特権じゃないんだとドSの顔を思い浮かべた。
せっかくの私だけがカッコつけられる一人舞台だってのに観客はこんな奴らだとは。
『安心しな、おめーの墓の前では思いっきり笑ってやらァ』
いつだか奴の憎まれ口を思い出す。
「はっ」
目が覚めたよ。だれが死ぬかってんだ、こんなところで。待ってろ、絶対お前より手柄あげて帰ってやるからな。
墓の前で笑うのは私だ!
高らかに響け、眠るまで
戦場を前に泣き言は消えていた。
THANKS 夜風にまたがるニルバーナ