「何してんの?」
空にひょいと現れた影。
見慣れたそれに私は答える。
「見て分かんない?」
「寝転がってるってことはわかる」
「ていうか、邪魔。空が見えないでしょ」
言うと神威は肩を竦めて私の視界から退いた。
見えるのは一面の曇り空。
空を見るなんて、いつぶりだろうか。
晴れの日も雨の日も傘さしてるモンだから多分随分前だ。いや、もしかしたらこんなにじっくり見た事は一度もないかもしれない。
しかし、意外と眩しいな。
眉を顰める。眩しいって事は太陽は間違いなく雲の上にあると言うわけで。所々雲が破けて光が射してるから雲が薄いのかもしれない。そしたら此処にいるのはちょっとヤバいかなぁ。
「何、君此処で死ぬ気?」
「いや違うけど」
端的に否定を示して、でもそれもいいかもなぁなんて思ってみる。
太陽に当たって死ぬ。私達夜兎にはあまりない死に方だ。じめじめと暗い所で血に塗れて死ぬくらいなら此処で人生終える方がずっといい。
鳳仙の旦那は好きじゃなかったけどそれだけは羨ましかったな。
風で雲が動いたのか、僅かに近くに陽光が射した。ぱきっ、と肌が音を立てて割れる。
本気でそうしようか、と思った頃に猛烈な痛みが身体を走った。
「いっ……!?」
見れば神威がギリギリと私の足を掴んでいた。その足からどくどくと血が流れ始める。
やっぱりね、と神威は呟いた。
「足怪我したんなら素直に助け求めたらどう?」
「……」
別に助けて欲しい訳ではないのだが。
ぱきん、とまた肌が割れる。
がんがんと頭痛もしてきた。そろそろヤバいかなぁなんて考えてたら、身体がひょいと宙に浮いた。
「…………何してんの」
「お姫様抱っこ」
恥ずかしい事を平気な顔で宣う神威。
「いやだ、放してよ」
「何悲観的になってるか知らないけど、俺がそんな事許さないから」
颯爽と歩く神威の顔を見上げたが太陽が出てきたのか眩しくて逆光で見えない。パキン、と神威の肌が乾いて割れる。
おいやばいんじゃないのか、と言おうとすると神威がこちらを向いた。
「君は俺が殺すんだから、それまでに勝手に死ぬな。殺すよ」
矛盾だらけのその言葉に私は何も言い返すことが出来なかった。
神威の目がいつもの様に笑ってなかったから。
「……バカじゃないの、あんた」
「バカは君でしょ」
「じゃ、お互いバカだな」
あの死に様を見てからもやもやしていたのが、暖かい日差しを浴びて――久し振りに、いい気分になった。
腐れ縁
(いつか殺すってお互いに言い合ってからどれくらい経つかねぇ)