「何してんだ、お前」
屋根に寝そべり、空を仰いでいる神無に声をかけた。
「ん?……星空眺めてた」
「祈りでも捧げてたのか?」
隣に腰掛け軽口をたたく。笑ってまた軽口を返すと思ったが、らしくなくこいつは神妙な顔をした。
「……かもね」
「なんだよ、らしくねーな」
神無の瞳は空を見たまま動かない。
今日の戦のことでも思い出してるのかと勝手な推測をする。
するとふいに神無が口を開いた。
「銀時」
「あ?」
「鬼ってどこにいるんだろうね」
また、唐突な質問をする。黙っていると何を思ったか神無は笑った。
「アンタも私も鬼だって言われてるけどさ、そんな高尚なモンじゃないのに」
その言葉に、あながち俺の推測は外れちゃいなかったな、と思う。
そして同時に神無の言葉に同感した。
「……そうだな」
白夜叉、黒鬼。
俺たちが似たような異名で呼ばれてからどれぐらい経つか。
もう何年も人を斬って来たが、変わった事と言えばこの腕がよけいに血にまみれていくだけだ。
――だが、それでも俺は守りたいモンを守るしかない。
神無が俺の考えに呼応する様に微かに笑んだ。そして、続ける。
「……人を斬りながら誰かを愛したり嘆いたりって、人間だから出来る事なんだと思うの」
「――ああ」
じゃあ。
神無は淡々とした口調で言った。
「愛する事も嘆く事も出来ない私は、一体何者なんだろうね」
そこでようやく神無は俺を見た。
いつも静かなその瞳には微かに陰りが見えた。
私はアンタが羨ましいよ、銀時。
そう呟いて、また笑う。
こいつは悲しくなった時ほど笑う。ガキの頃からの癖だというのをまだ気づいていないらしい。
「……お前は人間だよ。間違いなく、な」
「……どうして?」
「そんな複雑な事考えられんのァ人間だけだ」
「じゃあ、私は欠陥人間か」
「みんなそうだろ」
「……それもそうね」
鬼ですらない
神無はあの日と同じ様に笑った。
-END-
*感情が麻痺しているヒロイン。鬼ほど高尚でもなく、人間でもない。それが微かに目覚める時だけ、彼女は笑うのです。