空は、快晴。
冬ならともかく、この季節でこの天気はあまり喜ばしい事ではないのではないか。
「あっつーい」
ミーンミンミンミン、と蝉の声。蝉時雨と言えば聞こえは良いが、私にしてみればただ煩いだけで風情も何もない。てゆうか最近は特に蝉が増殖している気がするんだけど。
温暖化やらなんやらで自然が何処か狂い始めているに違いない。地球は一体何処に向かっているのかしら。
バタバタと制服を煽りながらくだらない思考を回す。
「オイ、そっち行ったぞ!」
「はいぃっ!!」
木陰のベンチに座ったは良いものの、やっぱり暑いのは暑い。グラウンドでは物好きな人達が野球をしている姿が見える。
――まあ、そんな物好きなんてうちの組にしかいない訳だが。
発端は沖田くんで、何やかんやで土方くんや神楽ちゃんと喧嘩になって勝負は野球でつけようとなったらしい。
といっても本格的なモノでなく、ただ片方が投げて片方が打ち、多く打てた方が勝ちというルール。
いつのまにかキャサリンや新八くんや山崎くんまで参加し、それなりには盛り上がっているようだ。
「よくやりますよねー、こんな暑い中」
「んっとだよ、あのバカ共は一体何がやりたいんだ」
「喧嘩でしょ。せんせーもご苦労ですね、この暑い中見張りなんて」
「ババアに何しでかすか分かんないから見張ってろ、って言われたんだよ」
ちっ、と舌打ちをする我が担任。教師が舌打ちとかどうなんだろうね、と心中で呟くが、そんな事言っても今更なのは百も承知だ。
「でも楽しそうだねー」
「なら神威も行ってくれば」
そう隣の人に提言すれば「面倒だからやだ」と子供みたいな口調で拒否される。神威が笑顔なのはいつもの事だがこの暑さの中ではかなり不可解だ。
「君はいつも涼しそーでいいね」
「そうでもないよ」
「どうだか。その余裕分けて欲しいよ」
ふぅ、と聞こえる溜息。
珍しいなと思い顔をあげると、いつもの笑顔を貼り付けながら、じっとこちらを見つめる神威。
なんだ、と首を傾げる私。
「なら、チョコレートあげようか?」
「何が『なら』よ。こんな暑い時にいらんっつーの」
何を言い出すんだこいつは。
「じゃあそれ俺にくれ」と言う先生もつくづく物好きだな、と思う。
「これさっきまで冷蔵庫で冷やしてたやつなんだけどなー」
「是非頂きます」
ばっと神威から半ば奪い取る様にして一口サイズのそれを口に放り込む。じんわりと広がる甘い味。だけどチョコは思ったよりもぬるくなってて、思わず私は顔をしかめた。残念だったね、とケラケラ笑う神威を横目でじろりと睨んだ。ドSも大概にして欲しい。
すると横にいたたまちゃんが「神無様」と呼びかけて来た。振り返ると、「良ければどうぞ」と差し出されたのは冷やたそうな麦茶。
そばには氷につけたやかんがあり、さすが気が利くなぁと感心しながら、「ありがとう」と礼を言ってそっとそれに口を付ける。いやぁ、たまちゃんはZ組唯一のオアシスだ。
「……ってあっつゥゥゥ!?麦茶あっつっ!!なんでっ?」
「すみません神無様、どうも私の熱が麦茶を沸騰させてしまったみたいです。この暑さでオーバーヒートし、がががががが」
「ちょっ、たまァァ!?大丈夫……ってあっつゥゥゥ!!頭あっつゥゥゥ!!ちょい、誰か源外のじいさん呼んで来いィィ!!」
暑さで地球以上に機能がおかしくなったらしいたまちゃんに坂田先生が慌てる。(てか熱で麦茶が暖まるってどんだけ?)
真後ろにある窓から保健室にかつぎ込まれるたまちゃんを見送りながらまた私は溜息をひとつ。
「この暑さどうにかならんもんかねー」
ミーンミンミンミン。また煩い蝉が鳴く。
「俺は好きだけどね」
「夏が?それとも暑いのが?」
聞きながら口元を拭い、前方の試合を眺める。土方くんが沖田くんにボールを当てられたらしく、かなり怒っていた。んー、もうちょっとで勝負つきそうかな。
「両方かな。汗で透けた神無のシャツも見れるし」
「ふーんそう……って、はぁ!?」
慌ててばっと胸を隠すと冗談、って神威は笑った。
むっときて神威を睨むと反対ににっこりと笑みを浮かべやがる。
こんな時でも整った顔だとかっこいいのがなんだか悔しい。
「まぁ、こんなに暑いのも今だけだし」
「そりゃあそうだけどさぁ」
何もこんなに暑くならなくたって。と軽く太陽を恨んでみる。
ってか、本当にそろそろ限界だ。暑い。頭がどうにかなりそう。
「俺も暑いし。……せっかく二人きりになったんだし、どうせならもっと熱くなっとかない?」
「はぁ?」
訳の分からない事を言うクラスメートに顔を向ける。
しっ、と至近距離で唇に指を当てる神威に何故かどきりとした。
ぐっと整った顔が近づく。
思わず後退すると腰にするりと手を回され、次には唇に生暖かい温度を感じる。
驚きのあまりびくりとしてそのまま硬直。
訳が分からずじたばたと抵抗しても、神威に力で叶う訳がない。
「〜〜っ」
熱くて、息苦しくて。目を開けると青い瞳と汗に濡れた橙色の髪、白い肌。つぅ、と頬を伝う雫。
蝉も鳴き止んだのか周りがやけに静かだ。
「ぷはぁっ」
解放されて息をつく。ゲホゲホと咳き込むとまたケラケラと笑い声が聞こえて来た。イラッとした私が問い質そうと口を開くと、
「何やってんだ、おめーら」
呆れた様な教師の声。
ばっと振り向くと気だるそうに頭をかく坂田先生と、その他驚いた様に目を見開くクラスメートの面々。
「公開プレイってのもいいもんでしょ」
かああっとまた顔が熱くなった私に神威が一言。
瞬間、熱と恥ずかしさが頂点に達する。
葉っぱの隙間からじりじりと肌を焼く熱。そしてまた煩く鳴き始めた蝉の声を聞きながら思う。ああ、
溶けて消えたい
(……っつーかその前にお前が消えろっ!セクハラ馬鹿!!変態っ!!)
(酷いなぁ。好きな相手としたいと思うのは自然な事だと思うけど)
(なっ……!!)
(暑くてさすがの俺も我慢できなくなっちゃってサ)
(オイオイ、てめーら。いちゃつくなら他でやれ。すげー暑苦しいんですけど)
(データに加えておきます。夏のキスは暑苦しい、)
(嫌ァァやめてェ!!)
てんやわんやな夏の放課後。
*ROUTE様提出。
夏の熱さは何かをおかしくする、というお話。(何
色々と、何を血迷ったんだろう私は。……最近スランプなのでこの辺で許してやってください!
ほんと駄文ですみません。前に続き、素敵な企画に参加させて頂きありがとうございましたっ。