半身が、千切れた様な気がした。死体なんて、何百何千と見てきたろうにそれを見た瞬間体が一瞬にして凍り付いた。長い黒髪も、白い肌も、大量に流れ出る血も、紛れもなく彼女のもので。周りの屍よりも目立って、くっきりと白く浮かび上がっていた。

それは白い肌がさらに白くなってだらりと昼寝でもしてるみたいにだらしなく四肢を地面へ放り出している。


いつもぐちぐち言いながら俺に付きまとっていた彼女。ため息をつきながらも俺の側を離れず、他の奴らと違って冷たくしたって全く懲りない。幼い頃からそうだった。幼なじみだから、と使命感にかられているのかもしれない。よくは分からないが。

あの星を出る時だって勝手に着いてきた。まぁ、神楽と違って強かったし、ほっぽってても勝手に這い上がって勝手に強くなっていった。なんて生命力だと何回驚かされたか。

だから普通に、今回だって勝手に戻って来るものだと思っていた。だけどあまりに遅くて文句の一つでも言ってやろうと来て見れば。

なんだ、なんてざまだ。


「―――」


彼女の名前を口にした。ぴくりとも動かない。何をふざけてるんだ。いい加減にしないと殺すよ。

首筋に手を掛けた。びくりとふるえる筈の体はおよそ人間と思えない冷えた温度を俺に伝えて背筋にまで走らせた。

笑いがこみ上げる。含み笑いが次第に大きくなって、いつものようにけらけらと。そこで自分が初めて笑ってなかった事に気づいた。


そして同時に笑いとは明らかに違うものがじわりと込み上げて来る。


――ああ、なんて馬鹿なんだ。いまさら、いまさら気づくなんて。昔からずっとそこにいたのに。











どれ位そこに居たか。よく分からない。ただもうそこに居るのも飽きて手を離し、もう戻ろうと船の方へ足を向けた。

瞬間、後ろに気配がした。勿論彼女のではない。近づいてくるそれに振り返って殺す事は容易だったが、どうもそうする気にはならなかった。

敵の陰がゆらりと蠢く。形から察するに、得物は刀か長刀か。





終わりか。





ふとそう実感した。なのに絶望感はかけらもなかった。何も感じないまま、刃物が振りかざされる。



ざくり。



胸部から刃物が突き出た。傷口から血が滴って、じわじわと身体を真っ赤に染める。俺の意識は緩やかに黒に包まれ、失われていく、筈だった。




倒れたのは敵の方だった。ぐらりと傾く影が見えて、俺はゆっくりと後ろを振り返る。






「ずいぶん、な……間抜け面ね……神威」






彼女の声が聞こえた。俺はいつもの様ににっこりと笑う。





「やっぱり寝たふりしてたんだね、君」

「あほか……気絶、してたんだっつーの……」





彼女は苦しそうに腹部を押さえる。そこからはどくどくと血が流れていた。なる程、気絶しててもおかしくない量だ。


彼女はふと俺を見つめた。すると途端に目を丸くさせて、驚いた様にぱちくりと瞬きをした。なんだ、と聞けばそれはこっちの台詞だと言って今度はふっと笑みを浮かべる。





「なに、泣いてんの。アンタ」





今度は俺が笑う番だった。彼女は相変わらずおかしな事を言う。





「俺が泣いてる?あり得ないよ。君、とうとう頭がおかしくなっちゃった?」


「……ふっ」





彼女は軽く笑って、今のは見なかった事にしてあげるよ。と揶揄する様に呟いた。






(それより早く手当てしてくんない?死にそー…)

(帰ったら覚悟しておくんだね)

(…あー、はいはい)









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