・君に会うために生まれてきたのだと言うことができたなら、どんなに幸せだったことだろう
やあ、俺、茶碗。
なんだこいつトチ狂いやがってと思うなら思いたまへ。君が俺の姿を一目見たならば「私が間違っておりました貴方はどう見てもお茶碗」と頭を下げるほかないだろう。もう一度言おう。
やあ、俺、茶碗!
九十九神というものがあるだろう。それですそれ。神様にあと一歩足りない哀れな物の怪風情。そんな俺は、俺の後ろでうとうとしているかわいこちゃんのマイ茶碗。ちっこいこの子がもっとちっこい時に「自分で選んだ初めてのお茶碗」であり、忍術学園に入学してマイ茶碗を必要としなくなっても宝物入れ(なんかキラキラした石とか)やらおやつ入れ(金平糖とか飴玉とか)として働きまくる今日この頃。勝ち組ですイエエエイ!!
俺のかわいこちゃんは今日もかわいこちゃん。
日に日に薄暗くなる顔の影もまたかわゆらしい萌え萌えキュンキュン!忍術学園で一番かわいい超可愛い。ここまで言ったら、俺のかわいこちゃんが誰だかわかるだろう。少しヒントを出し過ぎてしまった。
そう、下坂部平太くんです。可愛過ぎて無いはずの心臓がキュンキュン!陶器で良かったキュンキュン!
忍術学園に入ってから日に日に影を背負うようになって、いじめか何か受けているのか呪いかけてやろうかコラァと見えない敵と戦っていたが、ただ単に担任の先生の影響だったという。俺、茶碗だから動けんからね。
平太くんとその友達の会話で知れた新事実。
陶器だからね、俺。九十九と言っても神にあと一歩足りないから、呪い掛けるにしても夢の中で茶碗に潰れるとかその程度の悪夢に悩ます程度だから。実際戦う事にならなくて良かったと思うよ。カチ割られたら即死だし。
今日も先輩からもらったという金平糖を俺に入れて、平太くんは薄暗くニコニコしている。おともだちと「はいあーん」で食べさせあいっこしていたりはああああんかわいいよキュンキュン!有機生命体すごいな!無機物の俺でさえキュン死しちゃいそうなのに、よく耐えられるな有機生命体!平太くん一人でもきゅん死しそうなのに、お友達もかわいいってお前…パネェ、人間パネェ。
「平太、そのお茶碗大切にしてるね」
「うん…はじめて、とおさまに買っていただいたものだから…」
「そっかあ、いいなあ。僕も平太みたいに持ってくればよかった」
僕も自分のお茶碗えらばせてもらったよー…と、やっぱり薄暗い表情、かつ楽しそうに言うのはお友達の伏木蔵くん。次のお休みの時に持ってこようと言っているが、是非そうしてあげてくれ。お茶碗はね、持ち主の事が大好きなのさ。
ちっこい掌で大切に持ってもらって、丁寧に洗われて乾かされて、時に宝物入れ時におやつ入れ。この子と一緒なら俺も長生きできるだろう。そして神レベルをあげて、ひとつ足りない九十九から、完璧な百、かみさまになる!
そうしたら人の姿を借りる事が出来るから…そうしたら、平太くんとおしゃべりが出来る。
俺を選んでくれてありがとう! ガラクタ市で君のお父上は「こんな小汚いものでいいのか」と何度も念を押していたけど、君は何度も「これが欲しいの」と言ってくれたね、ありがとう!
俺を好きになってくれてありがとう! 君の小さな手が俺を洗うたびに、ガラクタの底で腐っていた気持ちが清められていったよ、ありがとう!
君に伝えられる言葉を手に入れたら、真っ先に言おう。
俺は君に会う為に、生まれてきたんだと!
だから俺が神になるまであと数十年、長生きしてくれよかわいこちゃん。
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