第四弾 元就編
2月14日
世間一般では、この日は大切な日らしい。特に女の子の大事な日、らしい。私はそれを知らない。外を眺めても分かりはしない。
何の日なんだろう。
知りたいな………
「今日って何の日なの?」
「ふんどしの日とバレンタインデーですよ」
「ふんどし………?(何で…?)………もう一つの…バレタ?」
「バレンタインデー、ですよ。女の子が好きな男の子に告白するチャンスの日なの」
「好きな……男の子に?」
看護師さんの話だと、手作りチョコレートを渡して告白するとかなんとか。とりあえず、告白チャンスを与えた日らしい。
なるほど、だから制服を着た女の子達がいつもは持っていない小袋を持って学校に行っているのか。
「………ふーん」
「名前さんはいるんですか?」
「何が?」
「好きな人ですよ」
好きな、人………
「……と…り…」
「ん?」
「…………ううん、何でもない。点滴ありがとうございます」
夕方4時半頃。「おーっす!」や「名前さーん!」と元気な声が聞こえた。あぁ、いつもの3人だ。
「うす!元気にしてっか?」
「うん、元親さん。元気だよ」
「名前さん!これ、どうぞ!」
「鶴姫ちゃん、これは?」
「鶴姫ちゃんお手製ボール生チョコですっ☆食べてくださいな!」
そう言って箱を取り出し、フタを外してくれた。本当に丸いチョコだった。ボールのように丸いチョコ。さらに色の濃いチョコで曲線が描かれていた。
そういえば、今日は2月14日。女の子が男の子にチョコを渡して告白する日。鶴姫ちゃん、もしかして………
「誰かに告白したの?」
「したかったです!宵闇の羽の方はシャイで、逃げるのもとても早くて告白しそこねました……」
「そか……。残念だったね…」
「まぁ、鶴の字はいつものことだ。コイツはいつも風魔に負けてるから気にするな」
「海賊さんひどいです!!!少しは優しさというのを言ってください!この鬼っ!」
元親さんは鶴姫ちゃんをいじって楽しんでいた。何だか微笑ましい。今の私には出来ないことだ。
そして、それを呆れて見ていたもう一人がいた。
元就さんだ。
「貴様等は阿呆ぞ。病院内では静かに、ぞ」
そういって元就さんは鶴姫ちゃんのお手製チョコに手を伸ばし、パクリと一口で食べた。
鶴姫ちゃんは「あーっ!!食べちゃダメですよー!!」と言った隙に、元親さんが鶴姫ちゃんの横から手を伸ばし、元就さんと同じようにチョコを一口で食べた。
「ちょっと!!お二人さん!これは名前さんにあげる分ですよ!?何勝手に食べているんですか!!!」
「では、名前が決めることだ。名前、これは我が食べてよい物かどうか判断せよ」
「待て待て、俺もいれろよ……」
私はどう答えれば良いか分からなかったが、鶴姫ちゃんがこのチョコは私の分と言っていた。
しかし、残念ながら私はそんなに食べられない。私はニコリと笑って「どうぞ」と言った。
「ということらしい故、もう一つ頂く」
「俺も俺も!」
「もぉー………とりあえず名前さん、一つ食べてくださいな」
そう言われたので一つもらおうとしたら、突然元就さんに顎を掴まれ、無理矢理元就さんが加えたチョコを口に押し込まされた。(咄嗟に歯で加えたので口づけはしていない)
「ブフッ……ゲホゲホっ……」
「きゃあーっ……!!も、元就さん大胆な……」
「も、もほはいはん………?(も、元就さん…?)」
「…………………チッ」
元親さんは驚きのあまりチョコを喉につっかえそうになってせき込み、鶴姫ちゃんは顔を目だけ見えるように両手で覆って赤面していた。私は顔が熱く、まだ心臓がバクバク言っている。病気が悪化するのではと言うくらい。
舌打ちされても………と思った。けど、危なかった……あの流れで歯に加えなければ間違いなく……
「そのまま無防備で入れば良いものを………」
「…………?」
「も、元就さんよ……俺らの前ですんなよ……つか、名前の心臓に悪いだろ…」
苗字名前、幼い頃から心臓病を煩わしており、突然発作が起こって意識がなくなってしまうことがある。学校もロクに行けず、入退院の繰り返し。
だが、最近は中学からの同期のこの3人が見舞いに来てくれて楽しくない日はあまりなかった。
そんな私は、3人の中の1人、そう、まさに今さっき口渡しでチョコを受け取った元就さんが好きなようだ。
私の心境を知ってやったのなら質が悪いが、それはないだろう。
しかし、これは…………逆であったとしても、チョコを貰った(?)形になるのかな………?
すると、元就さんは私の近くで囁く。
「バレンタイン。分かっておるな?」
そんなこと言われたら、勘違いしちゃいますよ………
また私の弱い心臓が強く高鳴ったのだった。
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いわゆる《逆チョコ》というもの
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