第一弾 元親編
本日は何の日ですか?
「本日は何の日でしょーか」
「バレンタインの日ーっ!」
「はい、答えは全ての教科が小テストの日でしたー」
「えっ!?ま………マジで……?」
「半分冗談」
「は、半分ってどういうこった…」
青ざめる元親を見て笑いが止まらない私。本当は、国語、数学、英語、歴史の私の嫌いな4教科が小テストの日なのです。
それとは裏腹に甘い香りが教室中を充満していた。
そう、本日の最大イベント、バレンタインデーでもあるからだ。
「なぁ、名前、何かねーの?」
「何が?」
「チョコとかよ」
「ない」
「えー………」
昼休み、元親が私の席の前でしゃがみこみ、まるで犬が好物を目の前に「待て」をされてるかのように私を見ていた。
実際、元親の席にかかってある紙袋を見ればすぐに分かる。たっくさんの本命チョコ。食べる気配もないチョコが何だか難儀に思えてくる。
「………そこのチョコ食べたらいいじゃん。…というか、近いから離れて……」
「このチョコは後で食うんだ。それよりほら、チョコ寄越せ!じゃねーと悪戯すっぜ!」
「………………」
おまえは子供か!とか、季節間違ってるっつーの!!と言いたくなるが、敢えて言わないでおくことにした。だが、かなり視線が痛い。
そりゃそうですよね。お相手はアニキイメージな元親くん。彼は学年の中でも人気者な彼が、おでこがぶつかってもいいような距離で私と話しているのだ。
「………元親、近いから離れて」
「じゃあチョコ寄越せ」
「頼むから……チョコなんていう乙女心要素たっぷりの物なんて持ってきてないから……」
「だけど、チョコの匂いがすんぜ?」
「それ、きっと周りの匂いだって」
キーンコーンカーンコーン
「あっ、ほら、授業始まるから席着いて!ね?」
「ちっ………放課後待ってろよ」
不機嫌なまま元親は席に戻った。
本当は、持ってきていたりするのだ。だが、そんなの渡せるわけがない。
だって…………
元親には彼女がいるから
テスト三昧だった本日の放課後、私は帰る支度をしていた。周りの人達は思いの外、チョコを渡すためか「ちょっとこっちに来てくれる?」と言って出て行く人がやたらと見られた。
元親も例外ではない。少し溜め息がでる。
「帰ろう…」
教室をあとにし、私は外にでる。
大体、元親も元親だ。付き合っている人がいるらしいのにどうして私と一緒に帰る必要がある?
考えたら考えたで結構辛かった。そうだ、一緒に帰る必要なんてない。
なのに、私はいい気になってこんな甘ったるい食べ物まで作ったのだ?
私は徐に鞄から小さく包装したチョコを出し、握りしめて地面に叩きつけようとした時
「やめろっ!!」
後ろからチョコを持った右手が誰かに掴まれた。
振り向くと、息を切らして私を見る元親がいた。
「何してんだよ!!名前!」
「…………元親こそ何でいるの…?」
「何でって、名前がいねぇから探しまわってたんだよ。……ったく、やっと見つけたと思ったらコレ潰そうとしてるしよ……」
すると、元親は私のチョコを取った。私は「あっ!」と声を発し、取られたチョコを返せと言いながら手を伸ばす。が、元親は私より背が高い上に、それより上にチョコを持った手を上げられた。ジャンプしても届かない。
どうしよう、と私の中で焦りが出てきた。
「返してっ!!」
「やーだね。これ、名前のチョコだろ?」
「だから返してよ!!!」
「俺じゃなく誰かにやるチョコなのか?」
「違うけど!元親が付き合ってる彼女に見られたらどーすんのよ!!」
「付き合ってる?」
元親は右手で私の顔を抑え込み、少し考える顔をした。
元親が顔をいきなり抑えたせいで「ふがっ」と変な声を発してしまったが、チョコ返せと伝わるように手をバタつかせる。
すると、元親はニヤリと笑みをこぼして私をみた。
「俺が誰かと付き合う……ねぇ」
「?」
「俺は誰とも付き合っちゃいねぇが、付き合いたいやつならいる」
すると、元親は私の耳元でこう言った。
俺の彼女になってください
私はボッと顔が赤くなり、ダメだ自惚れるな、と理性をただしながらも身体は動かなかった。
思考が回っていなく、足掻いていた手はいつの間にか下がっていた。
「………な、何言って…」
「俺は本気だ。名前。本当に誰とも付き合ったことなんてねぇ。俺は名前と付き合いたいんだ」
元親の顔が本当に真面目で、元親の右目に射抜かれる。
私は視線を下に移し、チョコに指を指す。
「………わ、…私の、答え…は、その……本命チョコ………だよ?」
元親は私に笑顔を見せて「これからよろしく!」と私のおでことこっつんこして言った。
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