策に策上回る者なし
”貴様はいつもそうだな”
笑って、また、笑う
だが、その笑顔は嘘をつかない。
”だから、我は信じてしまうのだ”
その笑顔に━━━━
安芸の当主、毛利元就が治めているこの地は穏やかな時間が流れている。日が差し込み、今日は洗濯日和だね、と侍女たちが会話をする。そんな話をひっそりと聞きながら楽しんでいる人がいる。
元就の正室、名前。またの名を妙玖(みょうきゅう)。彼女は外の人の話をこっそりと聞くのが好きなため、こうして襖の向こうから着物を縫いながら聞いているのだ。
「ふふっ、これも日輪の加護を受けている元就様の影響かしら?」
「当然ぞ」
着物から上に目線をやると、障子をあけたまま日に照らされている元就がいた。突然のことだった為、少し驚いた名前はハッとして我に帰った。
「元就様、入っていましたか」
「我は入ると申したぞ。反応せぬ貴様が悪い」
「そうでしたね。申し訳ありません」
微笑みながら謝る。元就はそれを見て溜め息をこぼす。そして、名前の隣に腰を落とし襖にもたれ、胡座をかく。
名前はそれを見てまた微笑み、着物を縫い始めた。
「先程から何故着物を縫っている。侍女に任せれば良かろうが」
「これはどうしても自分の手で縫いとうてございます。お許しを、元就様」
「………我は構わぬ」
少しむくれる元就。名前はそんな元就を見て、少し考えたかのように間をあけ、元就の肩の横に顔を置いた。そんな名前を見て元就は問いかける。
「何故このような暗い場で縫い物をする。日輪の下で縫えば良いものを」
名前はまた笑う。何が可笑しくて笑うのかは元就には分からない。名前は問いに答える。
「すでに日輪の下で縫っています」
「どこがだ。光の射さぬところでどこに日輪は……」
「あなた様という日輪がここにいらっしゃいますよ。違いますか?」
クスクスと笑う。元就は目を見開き名前を見る。そして、なる程そういうことか、と思い、普段兵士達の前では見せない笑顔を見せ、名前の頭に自分の頭を乗せた。
「貴様の策には適わぬわ」
「私(わたくし)はそのように思っておりませぬ。一番の策を作るのは、
元就様、あなたですもの」