君の物語


 季節は春から夏にかけての時期。この時期が一番倒れる人が続出する時期だ。
 温暖化の影響だろうと思われる5月の気温は26度。もうこれは初夏だ、そう思うほど暑い日差しの中で名前はアイスを食べながら歩く。今回のアイスはコーラ味。名前が一番好きな味だ。
 シャクシャクと食べる音はイヤホンから流れる音楽に合わせてリズムを刻む。それと共に鼻唄も交われば名前だけの世界になった。暑さなど忘れるくらいの自分の世界。


 ふと思い立ったように立ち止まり、残りのアイスを一口で食べてアイスの棒と袋は近くのゴミ箱に捨てて名前は近くの森林に足を踏み入れた。
 森林の中は昼間の時間とは思えないくらい暗いが、木々の間から木漏れ日が差し込み、それが蛍光灯代わりの役目をしてくれていた。名前はどんどん奥に行き、趣味道具の入っている鞄をしっかりと持って駆け出した。





 ────走ること10分。たどり着いたのは丘の上。先程の森林の道からは想像もつかない街が一望出来る丘だ。
その丘に一本の大樹があり、名前はそこに近付き幹の近くまでいけばその場に座った。大樹のおかげで名前が座っている場所は影になっており、名前のお気に入りスポットなのだ。
 そしてバッグから飲み物と筆箱、更にノートを取り出した。名前は徐(おもむろ)に筆箱からシャーペンを取りだし、ノートを開く。

「今日は5月の○日。晴天なり…………っと。さて、今日の物語は何にしようかな?」

 うーん、としばらく唸っていた名前だが何かを思い付き、シャーペンを走らせる。

「この、世界では………昼の民族と、夜の民族………がいる、と。……おっ、この曲この物語にピッタリじゃない?しばらくこの曲をリピートして想像を膨らませようかな。ふししっ」

 ウォークマンの設定をし、またシャーペンに持ち変えて走らせた。
 ここは名前が趣味するために用意されたかのように周りは静かで、時折吹く風で葉っぱたちが歌うように音を鳴らす程度だ。名前の好きな場所であり、特等席の場所なのだ。

「………あ、主人公どうしよう。えっと、見た目はすごくチャラいけど、根はすごく良くて、時々お母さんのような発言をする男の子………………って佐助みたいじゃん」

 まさか隣の家に住んでいる同級生が登場してしまい、おかしく思って一人笑う名前。だが、特にそれ以外思い付かなかったので彼を使ってしまえと思いそのまま続行した。

「ククッ、なーんか面白い物語が出来そうな予感ねぇ。クククッ」



 ────4時間後



 日は既に夕方になっていたが、名前はそれに気付かずにまだ物語を書いていた。
 ここの森林は昼間は木漏れ日のおかげでそう怖くはない場所だが、夜になれば周りは全く見えなくなり、迷ってしまう人も多くいるのだ。名前も何度か迷ってしまい、帰るのが遅くなってしまったことがある。
 そんな体験があるはずなのに全く気付かない名前は懲りずにシャーペンを走らせて自分の世界に入っていた。
 すると、森林の中から誰かが出てきて真っ先に大樹の方向に向かった。

「苗字ちゃーん!………あー、ダメだ。音楽かけながらしてるっぽいから遠くからじゃ反応しないや……」

 もぉー、と溜め息をはき、彼は名前の元に駆け寄る。そして近くまで来たのにも関わらずそこに人がいるとは分かっていない名前のイヤホンを取った。
 彼女は何が起こった?と言うかのように周りを見渡したあと、ようやく夜になっていたことに気付く。

「あ、もう夕方だったんだ」
「もーっ!苗字名前!」
「ん?……あ、佐助だぁ」
「佐助だぁ、じゃないでしょ!この時間帯までいるならここに行くなっていったでしょーが。もう………」

 顔に手を押さえてため息をはく青年の名前は猿飛佐助。鼻の上に絆創膏が貼っており、明るい茶髪をして緑の迷彩柄のバンダナをしている。
 彼こそ先程名前が物語の中で主人公にしていた人物だ。

「ごめんごめん。でも結構面白いストーリー出来たから読んでみてよ」
「今は帰るのが先!とりあえず森林抜けてから読んであげるから」
「あ、それもそうか」

 名前はとりあえず鞄の中に道具をなおして佐助と共に森林を抜けることにした。

「うちのお母さんが言ってきたの?」
「違う。親方様から行けって言われただけ」

 森林を抜けたあと、名前は早速ノートをだして物語の最初のページを開いて佐助に読んでと急かした。仕方なく佐助はそのノートに手をつけてゆっくり歩きながらそれを読んだ。

「……これ、主人公の名前が俺様の名前なんだけど」
「うん、佐助を主人公にした」
「…………なんで?」
「単純に名前思い付かなかっただけ。あと性格も佐助だよ」
「俺様の名前を使用するなんて、給料もらわないとね」
「やらないし」


 10分後、佐助は物語を読み終わり、名前にノートを返した。すると、名前がどうだった?と感想を聞いてきたので思ったことを佐助は言う。

「まるで鼬(いたち)と蛇だね。昼は昼の支配者、夜は夜の支配者が取り繕っているのにお互いその支配者のことを知らなかったとか」
「でも夜の支配者の指揮をとっている佐助が昼の支配者の女性、かすがと出会って世界が変わるんだよ」
「その"かすが"って子、かわいい?」
「私の中では美人でかわいいよ。金髪美女の予定だもん」
「実際にそんな人がいたらどうするよ?」
「仲良くしたいね。むしろ紹介してほしいくらいだよ」

 まぁいないけどねー、とケラケラと笑えば佐助も「そりゃそうでしょー」と笑う。
 結局は物語の中のお話。そう、名前が書いた小さな物語。だが、それがいいと名前は思うのだった。




end
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