とあるバイト日常


 とても寒い季節がやってきました。
 去年より早く降り始めた雪が降ってるため、今年の季節は一段と寒く感じますね。

 ですが、この喫茶店では例え寒くても客が一気に増える、ということもなく、なにかイベントがあるかと言えばそれもありません。
 違うと言えば、夏の間涼しい生活のために活躍していたクーラーがひと休みをし、今度は部屋を暖かくするためにひとつの暖炉が出てきました。その暖炉一つでこの喫茶店の中が暖かくなる不思議な暖炉です。

 が、そのほかは至っていつも通り。
 常連客が足を運んでコーヒーを主とし、この喫茶店でゆっくりと時間を過ごします。このいつも通りの時間が名前は好きみたいです。








「店長ー、ここの掃除終わりましたー」
「あぁ。次はこれを倉庫に入れといてくれ」
「店長人使い荒いですー」
「ゴタゴタ言ってねぇでさっさと働け」








 ここの店長の名前は片倉小十郎。とても強面で、最初にここに来た客の第一印象の大半が「ヤクザ」。
 そりゃそうです。左頬に何故か刀傷。いつもしかめっ面で笑うことがないのです。逆に怒ることは多々あります。
 ですが、その店長が出すコーヒーや食べ物を食べればその印象はコロリと変わってしまうほどその料理は美味しいのです。
 なんとも不思議な人だ、お客たちは口を揃えて言うほどに。








「店長ー、終わりましたー」
「あぁ。とりあえず座れ。今日はもう終わりだ。食ってくか?」
「是非とも!!!」
「声のトーンをあげるな。………ったく…」







 そう言いつつも名前が座っているカウンターの前に料理を一品置きました。本日の一品はビーフシチュー。その横に更に野菜スープ。スープの中身を覗けば、キャベツが数枚沈んでいました。
 「いただきます!」と元気よく言えば、名前はまずはビーフシチューにスプーンを付ける。トロリとしたそれを口の中に運べば更に顔が柔らかくなる。







「おいしぃよぉー!!もう店長結婚しましょうよ。店長の料理毎日食べれる、イコール私万々歳ですよ。イエーイどころじゃなくて、うぇーい!のテンションアップバージョンでお出迎えしますよ」
「しねぇからな。何言ってんだテメェは」
「ジョークですよジョーク。でも毎日食べたくなる味でつい言ってしまいます」







 名前がそう言うと返ってきた言葉が「そうかよ」と素っ気ない返事だが、小十郎の顔は少しだけ笑っていた。







「うわっ!初めてみた、店長の微笑んだ顔!ちょ、もう一回笑ってくださいよ、写メ撮るんで!」
「苗字、もう一回ゴミ捨てに行くか?次はお前がゴミとしてだがな」
「すいません、ごめんなさい。せめてこのご飯食べさせてから捨ててください」
「どっちなんだ……」







 名前はビーフシチューを半分くらい食べた後、野菜スープに手をつけてそれを飲んだ。
 スープの味はコンソメ味のふわりと優しい味とキャベツの甘い味が美味しさを引き立てていた。







「うンめぇ………!!!もう昇天してもいいよ……!!」
「縁起でもねぇこと言うんじゃねぇ」






 小十郎も名前の向かい側のカウンターに腰を掛けてビーフシチューを食べながらコーヒーを飲んでおり、相変わらず不味そうに食べるなぁと思いつつも名前は観察しながらまたビーフシチューに手をつけた。
 何でこういう人に限って美味しい料理がすごく美味しいのか不思議でならないと思うものの、ビーフシチューの美味しさにそれは降っとんでいた。






「店長」
「なんだ?」
「私、ここのバイト始めてよかったです」
「飯出すからだろ」
「それもありますけど、店長と知り合えて、この店の雰囲気とかも好きだったから余計に嬉しいです」







 コーヒーを飲みながら聞いていればそんなことを言われるとは思わなかった小十郎は目を思わず見開きました。そして思わず顔を隠して笑ってしまう小十郎。






「あ、あれ!?何か変なこと言いました!?本当のこと言っただけなのに酷くないですか?!」
「いや、悪い………フハッ…そんなこと言われるとは思っていなかったからつい、な」






 まだ顔を名前の方に向けず背中を見せる小十郎だが、背中は笑いを堪えてるためか、震えが止まらずにいた。


 そんな名前のバイト日常だったり、なんだりの話。
 恋に発展するかどうかは、あなたのご想像にお任せします。



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