瓶とガラス
私は瓶、の中に入っているけど瓶の妖精とやらではない。ただの瓶だ。だけどちゃんと名前はある。名前という名前。
いつからいるの?と言われると、この瓶が作られてからいる。当然だが、瓶を作っている人間には私らは見えない。見えていない。
瓶にも個性がある。それは作った人の魂というもので、それが反映されて”私”というものが出来たらしい。が、当の作った本人が私を見れないんだったら意味ないのでは?とふと疑問に思うが、まぁいいか、と流す。
私はこの瓶から出たことはない。出ようとも思わない。この瓶は幸いなことに色の付いていない、透明と言われる無色の瓶だから世界がどんな色なのかはっきり分かる。緑色の瓶とか水色の瓶に入っていたらきっと出たいと思っていたんだろうと思う。……………多分。
そんな私だが、今は水を入れられて花が添えられている。私はその底の方で花を下から眺めている。
そんなときだ。何かが隣に置かれた音がした。コトッ………何を置いたのだろうか、そう思って後ろを振り向けば一つのガラスコップが置かれていた。
「ほう、ここは外が眺められるか」
「………?」
声が聞こえた。ガラスコップの上の方を見れば、私と同じ存在の者がいた。隣には誰も来ないと思っていたが、きっとここの家の人間が気まぐれに置いて行ったのだろう。その証拠に、そのガラスコップには私の瓶と同じように花が添えられていた。
ガラスコップの者はガラスコップから出てきて空を眺めていた。そして何故か両手を広げて上にかざした。…………何の意味があるんだろうか。しいて言えば、そう。光合成。
「む、その瓶の中にもいたか」
瓶の中だからよくは聞こえなかったが、さっきまで光合成していた者がこっちに来た。逆光のせいで顔がよく見えない。
「貴様、何故ここにおる」
「…………何故って…出る必要もないじゃん」
「瓶の奴ならば上から出なくとも出られるであろう。出てこい」
「まぁ、確かにそうだけど」
出ろと言われたので、私は立ち上がって瓶から通り抜けて外に出た。
久々に出た外は瓶の中よりも少し眩しく感じ、目を細めた。その代わり、逆光だった光が少し柔らかくなり、彼の顔が見れた。あ、意外と端正な顔をしていたんだ。
「我は元就。貴様の名を言え」
「すっごい上から目線の人だなぁ……私は名前。この瓶の者だよ」
「ふん。ただの小瓶に過ぎぬな」
「えー……そんなこと言わないでよー。意外と住心地は良いんだよ」
元就はフンと鼻で笑ってまた外の眺めを見た。私も折角外に出たので、窓の近くまで行って元就の隣に行った。
外の世界は緑の草と木々に囲まれていて結構綺麗な眺めだった。私はこれを今まで見ていなかったため、こんなに綺麗とは思わなかった。思わず目を凝らして窓の外にある世界を眺めた。
「貴様、外の世界を見たことがなかったのか?」
「長年いるけど、瓶の中の世界だけで満足しちゃってたからね。ここのことは全然知らなかった」
「愚かなやつよ」
「えー………否定できない…」
けど、今からこの外の世界を知れたんだ。それでいいんじゃないかな。
「外の世界を教えてくれてありがとう、元就」
「我は何もしておらぬ。貴様が知らな過ぎなだけぞ」
「えー、そうかなぁ」
今日からお隣さんの元就さんが知り合いになって友達になりました。
それからのお話はまた別の話になるかな。
またどこかで会いましょう。
「元就は外の世界が好き?」
「我は日輪を拝めればそれでよい」
「にち…………え……?」