届かないなら
 石田三成、17歳。彼は必要以上のことしか言わず、融通のきかない気の難しい人である。だが、本当のことしか言わない。それが分かるのは指で数えられる人しかいない。
 隣の彼女もその一人だ。

 彼女の名は名前。17歳。病弱で、よく風邪をこじらせてしまう三成の幼なじみ。
 だが、三成とは対照的で、とてもよく笑い、優しい心を持っており、自然と人が集まってくる性格の持ち主。そのため友人も多い。こんな人が三成の幼なじみだとは誰も思わない。実質、幼なじみだと言って驚かれることが多々あった。
 彼女としては、何故驚かれるのかよく分からないらしい。何故なら、彼女は彼の良いところを幾つも知っているからだ。


 場所は病院。三成は箱を持ってとある病室に行く。その病室の札の所には「苗字名前」と書かれている。三成はノックもせずに勢いよくドアを開ける。



「あ、三成くんか。おはよー」
「ん。……ん」
「ん?」


 挨拶らしきものをしてから三成は持ってきた箱を名前の前に出す。不思議そうに見つめたあとに「もらっていいの?」と問うと、彼は静かに頷いた。
 名前は箱を受け取り、同時に三成はベッドの横に置かれたパイプ椅子に腰をかける。箱を開けると、クリームが飛び出るくらい生地からはみ出ているシュークリームが幾つかあった。彼女は目を輝かせて三成の方を向いた。


「食べていいの?」
「当たり前だ。そのために持ってきた」


 シュークリームは名前の大好物である。幼なじみのお陰で、互いの好みのものは何となく分かってきていた。彼は彼女が入院している間はいつも好きなものを持って行くことが多かった。ほぼシュークリームを持ってくることが多いが、名前は何も言わずにそのシュークリームをいつも美味しく食べていたのだ。
 三成は素っ気なく返事をしたあと、名前は、ではいただきます、と言って食べようとした。と、ふと思ってまた三成のほうを見る。


「三成くんも食べる?」
「いらん」
「あたしこんなに食べれないよ。それに、三成くんが買ってきたとこのケーキ屋のシュークリームは美味しいんだよ。ね?食べない?」
「……………」


 三成はしばらくしたあとにシュークリームを一つ取り出し、豪快に一口食べた。そのせいで、口の横にクリームがついてしまうが、彼女はそれを自分の指で取ってあげ、クリームがついた指を頬張った。三成はシュークリームを食べながら止まってしまい、少し赤面した。


「なっ………」
「ん?どうしたの?」


 何ともなかったように名前は三成を見る。彼女にとってそれは、昔からやってきたことなので三成の心情など知る由もなかった。
 三成は、少し名前の顔から逃げるように名前のいる側と反対に顔を向けた。「えー何でそっち向くのー?」と名前が問うが、三成は無視して一口食べたシュークリームをもう一口食べる。


「……いつになったら分かるのだ」
「何か言った?」


 名前はシュークリームを食べるのに集中していたので、反対側を向いている三成の声が聞こえなかった。三成はムッとしかめっ面になり、サッと名前の方を向く。


「いつになったら分かるのだと問うたのだ!!」
「何が?」
「………花咲男の言ったことは嘘だったのか……?裏切りおったなぁ!!前田あぁああああ!!!」
「えぇ!?何で前田くんのせい!?というより、静かにしないとダメだよ!」


 突然叫びだしたので名前は慌てて三成を止める。時々……特に家康と遭遇するとこういう風に叫ぶのが彼の短所だと名前は言う。
 すると、三成はガシッと名前の肩を持つ。更に驚く名前はビクッと全身で驚きを表現する。シュークリームが箱の中に落ちたのが不幸中の幸いであった。


「名前!!」
「はひ!!」
「穴という穴をよく開けて私の言葉に耳を傾けろ!!!」
「へ?!へ!?は、はい!」


 もう何が起こるかなど分からない状況で
名前は狼狽える。三成は名前の肩を掴んでいる手を更に強めて、真っ直ぐ名前の目を三成のエメラルド色の目が向く。


「私は貴様のことを好いているのだ!!私と共にいろ!!」
「はい!!…………はい?」


 突然の告白。思わず勢いで肯定してしまった名前はキョトンとする。しばらく呆然とするが、名前はハッとして顔を真っ赤にする。


「はへ!?え、三成………?」


 三成は力なく名前によりかかるように落ちていった。すると、震えているのが分かった名前は心配して、大丈夫?と聞く。


「…………った……」
「え?」


 聞こえなかったので三成の顔に近付き耳を傾けた途端、また肩をがっしりと掴まれ三成の頭まで近付けられた。先程まで下を向いていた三成の顔が上がり、目があった。三成の前髪が彼女の顔を通る。


「貴様の答えはそれか?言え、名前」


 少し不安そうな声で問う。上から目線の言葉は名前の知っている彼の言葉。彼女はフッと笑い「あたしでいいの?」と言う。













貴様でなければ誰に届ける言葉だ





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