愛したから


 この世がこんな世じゃなきゃ、俺にとってただのつまんねぇ世界になっちまう。だが、この世の短所は《人を簡単に殺れる》ことだ。
 簡単に人を斬って捨て、簡単に嘘を吐いて殺すことだって簡単だ。なんて最悪な世なのだと思う。

 だが、こんな世だからこそ俺は俺らしく生きていけるのだろう。笑える話だ。笑いたければ笑えばいい。









「元親様?」
「………」
「どうかされましたか、元親様?」
「…………ん、あぁ。いや、ちと考え事してただけだ。すまねぇな」









 もう月が高く昇っているというのに名前は俺の前でただ待っていてくれてた。俺はと言うと、まだ執務を終えずにいた。
 名前には先に寝とけと言ったが、名前はそれに反して「では月を見ていてもよろしいですか?」と言ったため、仕方なく許した。名前なりの我が儘だろうな。









「なぁ、名前」
「はい?」








 筆を置き、執務を放り出して俺は名前の隣に腰を降ろす。
 そして、さっき考えていたことを名前に言ってみた。








「アンタはこの世が戦国じゃなかったら、どうしてた?いや、どうしていたい?」
「えと……どういうことでしょうか?」








 よく分からなかったのか名前は首を傾げながら俺を見た。








「こんな戦国の世じゃなくてよ、もっと平穏な世に生まれていたら、何してたか考えたことあるかってことだ」
「………そんなこと、考えたこともなかったです」
「だよなっ!………ははっ、わりぃ、変なこと聞いちまってよ」








 そうだ、例え城にいたとしても安全とは言えないこの世。今を生きるのに必死なヤツが沢山いる。
 それは俺も言えるが、俺の場合、この世を楽しもうとしている。所謂《婆娑羅者》と呼ばれるような異端者だ。
 ……こうでもしなければ俺はこの世を生きれるかワかんねぇからだ。
 そんなことを頭の中で考えていると、名前が俺に質問を投げかけた。








「では、逆に聞きますが、元親様はこの世が平穏だったらどう致しておられましたか?」
「俺か?」








 戦がなくなれば武器もいらなくなり、絡繰り兵器もいらねぇようになるだろうな。そうなると俺の役目は終わりになるだろう。
 だがな、俺にはもう一つ生き甲斐があるんだ。








「俺は、例え平穏な世だったとしてもやめれねぇことがあるんだ」
「それは何ですか?」
「それはな、お前さんといることだ、名前」








 そういうと名前は顔を赤く染めた。俺も俺で実に臭いことを言った気がする。
 だが、アンタがいなかったらきっと今の人生は成り立たなかったと思うんだ。ただ野郎共と航海して、お宝巡りしていたらそれこそただの海賊だ。
 だが、国主をやっていて、四国の皆がいて、そして名前がいて……だから今の俺がいるんだ。アンタを心から愛せる人間になれたんだ。









「だから、俺は決めたんだ。名前を幸せにしてやるってよ」
「もももっ、元親様………!」
「例え平穏な世になったとしてもそれは変わらねえ。アンタはどうだ?名前」








 名前は一度深呼吸をしてから俺の質問に応える。








「私も元親様のことを愛したからここにおりまする!だから、どんな世になったとしても、お慕い続けることを誓いました。私は元親様のお側にいとうございます!だ、だから、その……」








 さっきより赤くなった顔を隠しながらおどけている名前が何とも愛おしくて、俺は思わず名前の手を引っ張って力を込めて抱いた。









「ありがとうよ、名前。アンタが正室でよかったと心から思うぜ」
「………!私もでございます!」








 ありがとう、名前。

 だからこれからも俺はお前を愛せるんだ。

 これからもよろしくな。





 
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