蓮華と蒲公英
 戦国、乱世。

 そこに二人、楽しげに花を見て楽しんでいる者がいた。








「ほら、鶴姫様。そこに蓮華の花が咲いてますよ」
「わぁ!小さくて可愛いですねぇ。蓮華の花と言うのですか?」
「はい。その横にある黄色い花が蒲公英(たんぽぽ)ですよ」
「わぁ……これが蒲公英……小さなお日様みたいで可愛いですね!」
「そうですね」









 その光景を見ればこの世は本当に乱世なのかと疑うであろう。そこはあまりにも花がありすぎて、戦火など今までなかったかのような花畑。
 名前にとってはまさに楽園の場所であろう。








「蒲公英はいずれ、白い綿毛になり、そしてその綿毛に種をつけるんです。あとは風に任せてどこかに飛ぶんです」
「種……赤子と同じでしたっけ?」
「はい。よく覚えていましたね」
「フッフッフ、鶴姫はちゃんと名前様が言ったことは覚えているのですよ?」
「なんと…!ありがとうございます」
「それにしても、蒲公英の赤子ちゃんが羨ましいです。私も一度出てみたいものです」









 女の方は鶴姫、この方一度も外の世界に行ったことがない伊予河野の隠し巫女である。
 そして、その隣にいる男は名前。この方は伊予河野と深い関係を持つ家柄の武人である。

 いつも名前が外で見てきた物等を鶴姫に報告し、鶴姫に言っては楽しんでいるのだ。
 しかし最近、その話をするといつも鶴姫は「外に出たい」と呟くことが多くなった。
 だが、時代は戦国。しかも乱世。隠し巫女であるが為に無知な鶴姫が出るには、あまりにも危険すぎるのだ。









「………そういえば、この前長曾我部殿とお会いしました」
「まぁ、どうでしたか?」
「相も変わらず、絡繰りを作っていましたが、鶴姫様の様子も気にしていましたよ」
「海賊さんなのに、ですか?」
「あの方は自身自ら言ってるだけです。本当は良き国主なのですよ?」
「えー、信じられないですー…粗大ごみを作っている時点で海を汚そうとしてるじゃないですか」
「鶴姫様、悪口はだめですよ」
「………むー…スミマセン…」
「はい」






 そういうと名前は鶴姫の頭に花冠を乗せ、鶴姫は少し照れながら笑う。


 蓮華で作られた花は少し鶴姫の髪に花びらを落としたが、それもまた似合う、と名前は思ったのだった。












 あなたは蓮華の花がよく似合う

 ですが、あなたは蓮華にはなれない

 あなたは蒲公英になってしまう

 綿毛がたどり着く場所はどこだか分からない

 それが海か戦場の場所か

 それでも根を生やさなければ生きられない

 あなたはこの地に生えてしまった

 この地で生きなければならない

 酷い話ですが








 それが、《蒲公英》の仕事になってしまうのです









ならば、私……俺があなたを守ろう

そうすれば、あなたは生きていられますよね?



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