第8話  握り飯







 美伊が毛利家に来て4日目。

 特に変わったことなく、一日の役目を終えようと日は落ちる。元就は机を前に夕日を眺める。



『夕日は嫌いぞ』




 しかし、夕日は見てしまう。それが夕日の不思議だと元就は言う。








「美伊様、物凄く働き者だよな」
「あぁ、何かないか何かないかとせがまれて困ったよ」
「お前もか?俺もだよ」








 ふと聞こえる兵達の会話。今度は何をやらかしたのか、とため息をこぼす。
 すると、またトタトタと走る音が聞こえた。まさか………と考えると「元就様!」と元気な声が聞こえた。元就は机に伏して「あの女は………」と怒りを抑える。








「元就様、失礼します!」
「…………我は入るのを許した覚えはないわ!!早々に去れ!!!」
「見てください!今日握り飯を作ったのです!食べてみてください!」
「うるさい!!!」








 そう言って元就は美伊の手を跳ね返した。それと同時に、美伊が持っていた握り飯が廊下に落ちた。









「あ…………」
「………………」








 元就は落ちた握り飯を見て一瞬動揺したが、すぐに部屋を出ていった。美伊は握り飯を拾おうとすると、侍女がすぐに駆けつけ、美伊の代わりに握り飯を拾った。
 美伊は座り込んだまま、元就が行った方向を見つめる。








「大丈夫ですか?美伊様」
「………あ、はい。大丈夫です。すみません、汚してしまって」
「お気になさらず。……元就様はとても気の難しいお方です。ですので…………」
「そのようですね」







 侍女は顔をあげると、美伊は横顔だったが何故か微笑んでいた。何故笑っていられるのだろうと不思議に思った。
 美伊は侍女の方を向き直し、「農家の人に謝らなければなりませんね」と言った後にこう言った。







「また教えて頂けませんか?」
「え?」
「まだ握り飯を上手く握れないので、教えて頂きたいのです」








 予想外の言葉に侍女は驚く。普通ならここで折れてもおかしくないのに、美伊は全く懲りずにもう一度作ろうとするのだ。
 しかし、美伊の顔はとても真剣だった。




『この人本気で……』





 いや、まだ日が浅いだけだよね、と自重気味に笑い「分かりました」と了承した。
 ありがとうございます、と美伊は笑いその場を後にする。








「美伊様、あなたはまだ元就様の恐ろしさを知らないのですね………」



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どちらぞ



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