第2話  時間






 儀式が終われば、元就は普段の袴姿になる。濃い緑色の着物と羽織を着て大広間に向かう。
 大広間には、食事を用意する侍女達で溢れていた。そこに一人、年老いた男が立っていた。侍女達に指示を出している男の元に元就がやってきた。男は「おはようございます」と言って頭を下げる。


「我の部屋に朝餉を持ってこい。よいな?」
「御意にございます。元就様、本日のお昼ですが……」
「分かっておる。爺よ、案ずるでないわ」
「失礼いたしました。元就様」
「ふん、よい。我は戻るぞ」



 そういって元就は部屋に戻る。元就が去ったあと、爺は侍女の一人を呼んで元就の朝餉を自分の元に持ってくるように言った。
 ご飯のときは普通皆で食べ、今日の予定や調子などを聞いて食べるのが一般的だが、元就の場合、皆で食べるのを嫌うため、戦前以外は自室で食べることが多い。そして、その飯を持ってくるのは爺と呼んだ男だけにしかやらせていない。侍女に運ばせることはまずないという。


 爺は皆が朝餉を食べる前に元就の飯を持っていく。

「元就様、朝餉をお持ちしました」

 そういうと、元就の部屋の障子を開け、障子を開けてすぐのところにそっと置く。爺はそのまま去っていった。
 元就は筆を置き、朝餉を食べながら書を読み続ける。これが元就の飯の時間の過ごし方なのだ。



 戦がない日は輪刀を磨いたり、策を練るため様々な書を読み漁っては使えると感じるものがあれば、それを書き写して残したりする。
 そうして昼までの時間を費やすのである。



 そして昼。昼餉も自室で食べる気でいる元就は部屋から一歩も出ずに書を読み漁る。書を読み漁ることが元就の趣味にもなっているのである。
 そうこうしているうちに爺がやってきた。


「元就様、昼餉をお持ちしました」
「入れ」


 そう言われ、爺は障子を開ける。「失礼します」と言い、爺は朝と違い元就の部屋の中心に昼餉を置く。そして、もう一品も入れる。


「元就様、爺も共によろしいでしょうか?」
「………何か用か」
「はい」


 爺ならよいか、と思い黙認した。爺は元就の昼餉の向かい側に昼餉を置く。元就は爺が置いてくれた昼餉の前に腰を落とす。
 二人して手を合わせ箸を持つ。そして昼餉に手を付けながら黙々と食べた。

 沈黙を破ったのは元就だった。



「爺、どうせ貴様の考えだ。本日昼の姫会のことでも言いにきたのであろう」



 爺は箸を止め、元就を見ては微笑む。元就は少ししかめっ面になりながら爺に問う。



「やはり適いませんな、元就様には」
「言われなくとも何度それでここに来たと思うておる…。我は出席致す。だから朝案ずるなと申しておろうが…」



 ハァとため息を吐く。しかし、爺は違う形で案じていたものがあり苦笑する。





戻るのか
目次に行くのか
どちらぞ



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