胸の中に仕舞い込んでいたい
それは春の木漏れ日が差して暖かい日のこと。美伊はやれることをやった後、元就のところに行ったときだ。
「………あら?」
元就は珍しく部屋から出て中庭を眺めて座っていた。そこは丁度日が差しており、火鉢など無くとも暖かいであろう場所だ。美伊は「元就様」と一声掛けるものの反応はなかった。
不思議に思った美伊は元就に近づいて見てみれば………
「………寝てる?」
覗いて見てみれば元就はコックリコックリと今にも前に倒れそうな状態で寝ていた。うたた寝するなど中庭を眺めてることよりも珍しく、思わず美伊はジッと見てしまった。
そしてそろりと元就の横に座り、美伊は一度してみたかったことをした。それは絶対元就が自らはやらないこと。
美伊は寝ている元就をそろりそろりと自分の方に傾け、ついに元就は美伊の膝の上で寝ている状態になった。いわゆる膝枕である。
「わー……やっちゃった……正室でも側室でもない私がこんなことしていたら元就様に後で叱られてしまいますね……」
等と呟くも美伊は笑い、元就は起きる気配はなかった。ゆっくりと寝息を立てて気持ちよさそうに寝ていた。
美伊は時折元就の髪を撫で、自分の膝の上で寝ている元就を愛おしく見た。
「……綺麗なお顔。とても、とても…綺麗なお顔………」
さらりと髪を撫で、その髪も綺麗なことにとても軍を率いている総大将とは思えなくなる。美伊は元就を見ながら今までのことを思い返す。
最初に会ったのは姫会。その時に言われた元就の言葉。
『しばらくここにいろ。貴様を候補として迎え入れてやろう』
ここに候補になるとは思いもしなかった自分が今ここにいる。
家のためにと言われて嫌々来たのにも関わらず、会った人は一目見た瞬間に自分の中で大きくなった。今では美伊の中での元就は離れたくない存在になっていた。
「……元就様、どうして私を選んで下さったのですか?」
美伊は思わず聞きたかったことを寝ている元就に言う。だが返事はない。寝ているから当たり前だが、それでも美伊の口は止まらなかった。
「私、ずっと気になっているんです。でもそんなの聞けないじゃないですか」
「元就様はズルいです。私の中の元就様はどんどん大きくなっていってしまう。だけど、あなたにとっての私はただの捨て駒なのでしょうね」
「では何故その捨て駒を捨てないのですか?何故ですか?」
美伊は一度元就を撫でていた手を止めて空を見る。青く透き通った空に暖かい日の光。それを見て目を細めて一番聞きたかったことを口走る。
「……何故…………いつまでも、候補なのですか………?私は……あなたの妻に相応しくないから……」
その言葉を言った瞬間、美伊はハッとした。何故ならその言葉はあまりにも奥深く胸に刺さり、それに気付いて涙を流していたからだ。
今までは候補から正室か側室にならなくても隣にいるだけで幸せだと思っていたのに、心の中の自分はそうではなかった。そんな自分に気付いてしまった美伊の頬から一粒の涙が落ち、それは元就の顔に当たった。だが、当の本人はまだ寝ている。
「……わた………し、は………満足……してなかったの……?」
‥‥‥‥数分後‥‥‥
「……んっ、寝ていたのか…。………?」
元就は目を覚まし、一人横で寝てしまっていた。
だが、何故か頬には涙が落ちたような濡れた感触があり、それに疑問に思うものの、それはすぐに消えたのだった。
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