第1話 元就
「松寿丸、今日は何して遊びまし
たか?」
「松寿丸!すごいぞ!おまえは策士にでもなれるぞ!」
「松寿丸、松寿丸……」
長く生きて、幸せになるのよ…………
「毛利家を討ち取れええ!!!」
「松寿丸、祖父のところに行ってきて」
「どうしてですか?母上、父上」
「とってきて貰いたいものがあるんだ。松寿丸がほしかったものがあるんだぞ?どうだ、行くか?」
「本当でございますか!?松寿、行きます!」
「松と行ってきてください。よろしいですか?」
「はい!!行ってきます!!!」
「まつ………どうなっているのだ……?」
「松寿丸様………ここから逃げましょう。さぁ……」
「父上と母上がいる!父上と母上は!?………まつ!まつ!!待って!!お願い!!!」
父上!!!母上!!!!
「……ちちうえ…ははうえ…………」
目が覚めたときは既に日は上り、朝日が照っていた。ゆっくりと布団から起き上がり、顔を指で触ると、水がついた。
「(また、あの夢か………忌々しい………)」
元就は寝衣で涙で濡れた顔を拭う。その後、顔を洗いに行くために井戸に行く。元就の部屋から井戸までの距離はそう遠くない。部屋から出て右の渡り廊下を真っ直ぐにいく途中にある。
バシャバシャと顔を洗い、侍女達が用意した手拭いで顔を拭う。春先だというのにまだまだ冷たい水が目を覚まさせる。
その後は寝間着から元就が毎朝行う儀式のための服に着替えるため、また自室に戻る。薄緑色の着物に肩には黄色い甲冑が着いている。戦装束にもなるようにした元就が考えた服である。前には赤い紐が蝶々結びでくくられてある。下は袴より膨らみがあるもの。そして、元就は履き替えると障子を開け、中庭に行った。といっても、中庭は元就の部屋から出てすぐのところだ。南蛮式の靴を履いたら池の近くに行き、両手を掲げながら太陽に向かって挨拶らしきものを唱える。
「日輪よ……今日も輝きまたわれ。我が日輪よー……」
これが元就の朝やる行事である。この儀式を見た者は誰一人いない。何故なら、朝はこの部屋を通ることを家臣であっても誰一人通さないからである。
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