第16話  城下町






「城下町に行くぞ」
「……………へ?」









 それはとても唐突に言われた。本当に唐突に。
 いつも通り、美伊が元就の部屋に訪れたときに言われたのだ。あまりに突然な話だったため美伊は少し放心状態になったが、「早よう着替えて来ぬなら置いて行くぞ」と言われたため、急ぎ部屋に戻った。




 10分後、美伊は元就と共に城下町に行った。
 元就が納めている城下町に行ったのはこれが初めてだった美伊は目を少しばかり輝かせていた。









「わぁ……」









 元就が納める城下町はとても血気盛んに動いており、そこに笑い声や商売人の声がとても響き渡っていた。馬を走らせれば海にも行けるところだ。
 今、元就たちの格好は町中でも目立たない着物だ。元就は少し渋い色の黄緑の着物に、美伊は淡い桃色の着物を纏っている。故に城下町の人は彼らがいることは分からないのだ。────一部の人間以外は。








「わぁ……!わぁ!」
「わぁわぁ煩い」
「も、申し訳ありません……元就様の城下町を見れて少し興奮しておりました……」








 元就は溜め息をごぼし、行くぞと美伊に言えば美伊は後ろから足早に元就を追いかけた。

 だが、どうしても気持ちが納まらない美伊は元就の前を歩いては店の前に立ち止まっていた。
 始めは団子屋だった。甘い匂いと香ばしい匂いに誘われたのだろう。それを見るやいなや徐(おもむろ)に懐から金銭を取り出していくつか買った。







「元就様、どうぞ」
「さっき昼餉を食べたところであろうが……」
「別腹、というものでございます」








 そういって笑えば元就は仕方なくその団子の串に手を取った。美伊も自分の団子を取り出せば、パクリと一つ団子を頬張った。
 美伊は団子を持ちながらまた何処かへ足を動かした。何故か元就が振り回されているような気がする彼は少し頭を悩ました。その時に口に入れた団子は何とも甘かった。



 次に赴いた先は風車がある店だった。壁や店の前には沢山の風車が置かれていた。時折吹く風に身を任せながら、風車の羽は回る。それをしゃがんで見ていた元就は何をしてるんだと言わんばかりにズカズカと美伊の横に立つ。







「風車、買ってもよろしいですか?」
「貴様は童か」
「可愛らしかったので」







 苦笑いを見せれば元就はまた溜め息を零して「勝手にしろ」と言えば、すぐさま明るい笑顔になる。
 だが、本日は何も店を楽しむために城下町を訪れた訳ではないことを、この時の美伊には分からなかった。



戻るのか
目次に行くのか
どちらぞ



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