第14話  嫉妬






「元就様」
「なんぞ」
「先の書状は何だったのですか?」










 元親が帰ったあと、美伊は書状が気になって元就に聞く。が、容易に元就が口を開くはずもなく


「貴様に話す内容ではない」


と言って足早に彼はその場から消えていった。美伊は少し物惜しげに元就の後ろを見たあと、自分の部屋に戻ろうとした時にふと思い出す。








「あ、ずんだ餅……」








 手のひらを見れば、先程元親からもらったずんだ餅をくるんでふっくらとしている葉の包みがある。美伊は元就に渡しそびれたのだ。
 美伊は少し悩んだ末にくるりと反転し、行く方向を変える。

 目的地は元就の部屋だ。






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 一方、元就は既に自室に戻って次の戦に向けて策を練ろうと書物を漁っていたところだった。
 そして夕餉の時間でもあったため、爺が夕餉を持って元就の部屋にいた。








「元就様、夕餉をお持ち致しました」
「入るがよい」
「失礼致します」









 そっと襖を開け、爺は夕餉を置こうと部屋に入る。









「元就様」
「なんぞ」
「姫様に言わなくてよろしいのですか?」
「…………話が見えん」
「先の長曾我部殿との話でございます」









 元就はしかめた顔で爺を睨む。だが手は書物を持ち、ページをめくる動作をして何食わぬ顔でまた書物を読む。
 爺は続けて元就に言う。








「姫様、妙玖様も知ってよいものだと私は思いました。何故妙玖様に伝えないのか少し疑問に思いましたので失礼ながら聞いたものです」
「爺、勘違いしているようだが、あやつはまだ我の妻ではない。故に知る必要はない」
「しかし、名を与えたので私はてっきり──」
「我に二度も同じことを言わすつもりか?」









 顔は書を読んでいる方向に向いているが、目だけ爺を向いていた。その目は非常に冷たく、その目で人を殺めてしまうのではないかというくらいの威圧だった。
 爺は少し目を見開き、その目を見つめていた。その目はいつも兵達に見せる、冷眼だった。嫌な汗が滴り落ち、爺は黙ってしまった。









「…………いえ、滅相もございません。失礼致しました…」








 深々と頭を下げ、元就にひれ伏す。元就の目は再び書物に戻し、鼻であしらった。








「話はそれだけか?ならば去るがよい」
「はっ………」








 爺は部屋から出ていった。やっと出て行ったか、と溜め息を吐く元就。書物を一旦閉じ、飯のところに向かおうと歩いた。
 その少し歩いた時だ。








「元就様、妙玖でございます。今よろしいでしょうか?」








 やっと飯にありつけることが出来たと言うに美伊がやってきた。元就は更に溜め息を吐き、しかめっ面のまま美伊に「入れ」と言った。不機嫌が伝わるのは言うまでもなかった。








「失礼致します。…………あ、夕餉の途中……でしたか……?」
「…………早よう用を済ませ」








 苦笑しながら美伊は元就のところに寄る。手にしていた物を見せれば、それは何かが葉に包まれた物があった。








「なんぞこれは」
「ずんだ餅です」
「………何故東北の菓子がここにあるのだ」
「先程元親様から頂いた物なんです。元就様にも食べて貰おうと思い、持ってきました」








 笑顔でそれを渡そうと元就の前に出す。だが、元就は不服そうにそれを見つめる。美伊は首を傾げる。
 ずんだ餅が嫌いなのだろうか?それともやはり夕餉を食べる直前で来てしまったからだろうか?
 不服そうな顔をする元就を見ていると、そんなことを考える。が、元就はそれで機嫌が悪くなったのではなかった。








「………長曾我部から貰ったのか」
「はい!何でも奥州に用があったため、そちらに行ったときに貰ったらしいです」
「……………それだけか?」
「え?……あ、はい。私も元親様も美味しいと思ったので、元就様にも食べて貰いたく──」
「何も、言われておらぬか?」








 元就の言葉に少し疑問を感じたため、首を傾げる美伊。元就の視線はずっと変わらずずんだ餅の方を見ており、表情は分からなかったが、美伊は元就の顔を見ようと言葉にする。








「………あの、どうかされましたか?元親様から頂いた物は食べれない、ですか?」
「……………」
「元就様?」









 何も言われておらぬならそれでよいではないか。
 だが、アレは鬼だ。いつこやつを自分の者にしようと分かったことではない。
 ずんだ餅を渡しただけで他はないのか?
 何故我がそのようなことで悩まなくてはならぬのだ……


 あやつとこやつが話している姿を見てから何か可笑しい。

 おかしい、おかしい………








「………なんぞ、このつかえは」
「元就様、どこか悪いのですか?大丈夫ですか?」









 だが、あやつには渡さぬ。渡しとうない。それだけが頭を過ぎらせる。

 美伊(こやつ)のせいで我の”忘れし物”が出てきておるのか?………それはあり得ぬか。
 我の心など当にどこかへやったのだから。







 ではこの”気持ち悪さ”は、何なのだ?








 だが、答えが出てくるはずもなく、美伊を置いて元就は考えていたのであった。

 それを”感情”という答えにはたどり着かずに、その日は終わったのだった。



戻るのか
目次に行くのか
どちらぞ



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